Outline of Annual Research Achievements |
申請者は, 多体シュレーディンガー方程式を厳密に解く第一原理量子モンテカルロ法のオリジナルな計算コード”TurboRVB”を, 世界中の研究者と共同で開発し [K. Nakano et al., J. Chem. Phys. 152, 204121 (2020)], 従前法では太刀打ちできない物質の電子状態を研究してきた. 本研究では, 複数の空間スケールを跨ぐ「マルチスケール計算」にまで視野を広げ, 申請者が追究してきた電子階層での厳密性が, より大きな空間スケール (i.e., 分子動力学階層)においても重要な役割を果たすことを明らかにする. 今年度の特筆すべき成果は, Hugoniot領域と呼ばれる温度・圧力領域における水素に対して, 第一原理量子モンテカルロ法の精度での分子動力学計算を可能にする, 機械学習力場を作成することに成功したことである. 上記温度・圧力領域においては, 電磁プレートを利用した実験により, 正確な水素の状態方程式が得られている. つまり, この領域では, 通常, 高圧・高温下では難しい, 実験と計算の比較を行うことができる. 独自に開発した, SOAP(Smooth Overlap of Atomic Positions)を利用したコードにより, 第一原理量子モンテカルロ法の結果を再現する機械学習力場を構築できた. その構築した機械学習力場を利用した分子動力学計算により, 第一原理量子モンテカルロ法がHugoniot領域における水素の状態方程式を正確に再現できることを明らかにした. また, 上記目標を達成するために必要な第一原理量子モンテカルロ法に係る要素技術開発, 及び, 計算条件の検証を, いくつかの化合物を利用して進めた点でも進捗があった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は, 高圧水素のHugoniot領域における水素の機械学習力場の作成に成功するのみならず, 状態方程式の計算, 及び実験値との比較するところまで到達している. すでに, 当初の目標としていた「申請者が追究してきた電子階層での厳密性がより大きな空間スケール (i.e., 分子動力学階層)においても重要な役割を果たすことを明らかにした」, という点で, 当初の計画以上に進展していると言える. また, 機械学習力場作成にあたっては, 第一原理量子モンテカルロ法を利用し, 原子に働く力を大量の原子配置に対して計算する必要がある. この点に関して, 今年は, TurboRVBの計算をハイスループット化するワークフローパッケージTurboWorkflows (i.e.,昨年作成したTurbo-Geniusをさらに発展したもの)の開発を進めた点についても, 当初の計画以上に進展している. 昨年, 今後の研究方針として決定した, 作成した機械学習力場作成コードをcubicセル以外も対象とするように拡張する, という実装も終了している.
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Strategy for Future Research Activity |
今期までは, 開発した機械学習力場の手法を, 主に液体水素に適用してきた. 来年度以降, 第一原理量子モンテカルロ法に基づく機械学習力場適用対象の化合物として, 引き続き高圧下の水素を対象とすると共に, 当初から計画し, かつこれまで, 密度汎関数法などで事前検証を進めてきた, 複雑な化合物, 例えば, 2次元性を有する固体水素, グラフェン, 層状物質, さらに複雑な高温超伝導体水素化物も対象とする計画である.
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