2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞、脳、群れにおける適応的な自己維持のダイナミクスと情報的閉包
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21K17822
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
升森 敦士 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (10870165)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 刺激を避ける原理 / 情報的閉包 / ホメオスタシス / スパイキングニューロン / スパイクタイミング依存可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究から、スパイクタイミング依存可塑性(STDP)をもつスパイキングニューラルネットワークでは、自発的に外からの刺激を避けるように学習することが見出されている。刺激回避の方法としては大きく、行動、予測、分離の3種類の方法が確認されているが、この3種類の方法は、情報的閉包 (Bertschinger et al., 2006)で議論されている情報的閉包を構成するための3つの方法に対応しているのではないかと考えられる。
本年度の研究では、スパイキングニューラルネットワークの行動、予測、分離による刺激回避の実験結果に対して、それぞれ情報的閉包の度合いを相互情報量を計算することで解析した。その結果、予測、分離については情報的閉包が構成されていることが示された。一方、行動の場合では、情報的閉包を強めることはなかったが、逆に弱めることもなかった。これはここでの行動による刺激回避が刺激を受けた上で継続する刺激を停止させるという反射的なものであったために刺激が行動の原因となり情報的閉包が構成されなかったが、一方で刺激を止めるという行動が原因となった環境変化もあるためそれらが打ち消しあっている状況だと考えられる。行動に関する追加のシミュレーション実験を行った結果、システム内部に刺激発生装置(空腹時に刺激を出す内臓のような位置づけ)を持っており、内部からの刺激が餌を獲得することで止まるといった条件の場合には、情報的閉包の度合いが高まることが示された。また、予測して事前に刺激回避すると言ったプロアクティブな行動や自発的な行動に関しても情報的閉包の度合いは高くなると思われることから、行動による刺激回避も総合的には情報的閉包と対応していると考えられる。このように行動(反射的な行動以外の行動)、予測、分離に関しては情報的閉包を構成する3つの方法と基本的には対応することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた解析の結果を受けて、当初は予定していなかった追加のシミュレーション実験を行ったために計画通りには進んでいないが、追加実験の結果によって得られた知見は次年度の細胞や群れへの研究に活かされるものであることから、順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでのスパイキングニューラルネットワークのシミュレーション実験とその解析の結果や議論をベースとして、ホメオスタシスと情報的閉包などの理論に関して単細胞モデルや群れのモデルへ拡張して研究を進める。そこで得られる結果を、単細胞のモデルはテトラヒメナ、群れのモデルはセイヨウミツバチなどの行動データとの比較も行いたい。
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Causes of Carryover |
当初は予定していなかったスパイキングニューラルネットワークのシミュレーション実験を優先していたことに加えて、昨今の半導体不足によって購入予定だったGPUやパソコンの価格が高騰したり品薄になるなどの状況だったため計算用コンピュータなどの導入計画が予定通り進まなかった。
次年度の早い段階で予定していた計算用コンピュータの準備を進め、次年度で行う群れの大規模シミュレーションを予定通り実施できるよう計画を修正する。
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