2023 Fiscal Year Research-status Report
プロテオゲノミクス実現のための変異タンパク質配列予測システムの構築
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21K17850
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
凌 一葦 新潟大学, 医歯学系, 助教 (70804540)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | プロテオミクス / がん変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年の研究進度報告では、質量分析に基づくプロテオミクスがゲノム配列決定技術と異なり、アミノ酸を1つずつ検出することができないこと、質量分析計から得られるスペクトルのパターンを理論上のタンパク質配列から推定されるパターンと一致させることで配列を推定することについて述べた。また、データベース内のペプチド配列と取得されたスペクトルを照合する必要性についても言及した。今年はこれらの研究をさらに発展させ、新たな進展があったので報告する。 1. 変異タンパク質データベースの構築と運用: 昨年の報告に基づき、個々の癌患者サンプルのゲノム情報を元にした変異タンパク質配列を含む参照データベースの構築を進めた。今年度はこのデータベースの運用を開始し、以下の具体的な成果を挙げた:(1)データベースの拡充:CPTACなどの大規模がんゲノムデータを活用し、変異・ゲノム情報・タンパク質質量分析データを統合することで、より包括的なリファレンスデータベースを構築。(2)変異からプロテインへの影響の可視化:プロテオゲノミクスデータの理解を深めるため、データの可視化技術の開発にも注力した。 2. 精度の向上と応用:プロテオゲノミクスの予測検証に広く応用するため、以下の取り組みを行った:(1)実際の癌患者サンプルにおいて、癌変異が反映されるプロテオミクス質量解析を検証。米国のNCBI Clinical Proteomic Tumor Analysis Consortium (CPTAC)から、変異やゲノム情報を同時に持つプロテオームレベルの質量分析データを取得。 検証結果の精度を向上させるため、Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE)の細胞株の癌変異とプロテオームデータの検証も補充した。 これらに基づき、汎用できる変異プロテオゲノミクスシステムの構築を実現。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている理由は主に以下の2点である: 1.変異からプロテインへの影響の可視化機能の追加:データベースウェブサイトにこの機能を追加することで、研究者が容易にアクセスし、データを視覚的に解析できるようにすることを目指している。ただし、インタラクティブな可視化ツールの導入やプロテオゲノミクスデータをインタラクティブに操作できる環境の整備が、当初の計画よりも難しく、予想以上に時間がかかっている。 2.CPTACやCCLEデータの変異プロテイン配列の構造と質量分析の精度向上:精度を上げるために、より多くのサンプルで検証することを計画していた。しかし、計算量や計算環境の制約により、計算時間が予想以上にかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 複数の公開ゲノムデータベース・ヒト癌種類以外に、複数の生物種、ゲノムバージョン、シグナルパスウェイなどあらゆる組み合わせの質量分析精度検証を行う。これにより、プロテオミクスデータの解析結果が他の生物種や異なるゲノムバージョンでも有効であることを確認し、研究の汎用性と信頼性を高める。 (2) ゲノム変異として起きているタンパク質配列の変化は、翻訳後修飾異常やタンパク質調節異常などの問題が原因であり、疾患と標的治療に深く関係する。ゲノム変異により得られる変異タンパク質配列では、本来生じるはずのないリン酸化が起きる可能性や、逆に本来は生じるはずのリン酸化部位が変異により消失するという現象が観察される。これにより、疾患のメカニズムをより深く理解し、個別化医療や新たな治療法の開発に寄与する。 (3) より効率的で効果的な可視化技術の利用と開発を進める。具体的には、プロテオゲノミクスデータの視覚的な解析を支援するためのインタラクティブなツールや、データの動的な操作が可能なプラットフォームを導入し、研究者が直感的にデータを理解できる環境を整備する。また、新たな可視化技術の開発にも注力し、より多くの情報を効果的に伝える手段を探求する。これにより、研究成果の共有と応用を促進し、共同研究の機会を拡大する。
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Causes of Carryover |
国際学会で研究業績を発表する予定である。
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