2022 Fiscal Year Research-status Report
微生物核酸の同位体比測定による新たな生態系構造解析手法の確立
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21K17879
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
大西 雄二 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 特任助教 (10847677)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 琵琶湖 / 底生動物 / 微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に採取した試料の分析を進めた。夏季に琵琶湖最新部(推進90m)と水深50m地点の湖底で採取された堆積物と底生動物の硫黄同位体比を測定した。堆積物からは高濃度の硫化物が検出された。その硫黄同位体比を測定したところ、その硫化物の起源が堆積物内での有機態硫黄の嫌気分解や、硫酸還元細菌による硫酸還元によって生じていると考えられた。さらに、その硫化物が堆積物深部で硝酸還元型の硫黄酸化細菌によって消費されていることも明らかとなった。この堆積物で生成、消費されている硫化物の硫黄同位体比と、底生動物の硫黄同位体比を比較することによって、底生動物の硫黄栄養源の内、約60%が硫化物に由来することが明らかとなった。これはこれまで淡水環境ではほとんど知られていなかった、硫黄循環に関する新たな栄養経路である。 これらの成果によって2件の国内、国際学会での発表と、1件の国際誌への論文投稿を行った(現在査読中)。 上記で示した新たな栄養経路は堆積物内での強い貧酸素環境によって生じていると考えられる。そのため、湖水の全層循環が生じにくく、湖底が貧酸素水塊に覆われる夏季に調査を行った。新たな栄養経路が夏季の成層期特有の現象であるのか、それとも年間を通じて生じているのかを明らかにするために、循環期である3月にも調査を行った。成層期調査と同様の試料を採取し、分析を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題開始時点で、新型コロナ感染症の流行により研究計画を大幅に修正せざるを得なかった。しかし、修正以降の計画については概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、2022年3月に採取した試料の分析を進め、淡水湖における硫黄の生物地球化学循環の季節性を検証する。季節性が見らる場合は、隔月で調査を行うことで、硫黄循環の季節変化を追跡する。これによって、年間を通じての硫黄循環を定量的に明らかにすることができる。 また、琵琶湖は湖水中の硫酸イオン濃度が低い淡水湖であるが、反対に湖水硫酸イオンが非常に高濃度に含まれる淡水湖(例えば、福島県の猪苗代湖)でも調査を行い、硫黄循環の比較を行う。これにより、本研究で明らかにした新たな硫黄栄養経路が琵琶湖に特有であるのか、より一般的な現象であるのかを検証する。
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Causes of Carryover |
2022年度も2021年度に引き続き、新型コロナ感染症の流行により一部行動が制限され、研究計画を変更せざるを得なかった。国内・国際学会参加のための国内外への出張も行うことができず、学会はオンライン参加のみとなっていたため、当初の予定通りに旅費を使用することができなかった。
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