2021 Fiscal Year Research-status Report
The History of Inclusion and Exclusion of Sinti and Roma: Nazism and BRD after 1945
Project/Area Number |
21K17948
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
大谷 実 岩手県立大学, その他部局等, 講師 (10826605)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 西ドイツ / マイノリティ / 包摂と排除 / 市民社会 / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、戦後西ドイツ社会におけるシンティ・ロマに関し、まず先行研究の渉猟ならびに検討を中心的に取り組み、以下の諸点が明らかとなった。 先行研究では、戦後補償および人種迫害をめぐる展開に焦点を当てた研究が比較的多くなされてきた。その結果、行政および学問におけるナチス期との連続性が指摘されてきた。すなわち、「絶滅収容所」の有無という明確な差異はあるものの、シンティ・ロマを取り締まるうえでの行政の基本的な排除の方針は変わらず、その強調される側面が「人種」から「反社会性」へと時代状況に合わせて変化したに過ぎないというものである。ドイツ社会における市民的規範に反するとみなされた人びとを「治安維持」「犯罪対策」を名目として取り締まり、社会の周辺に追いやるという、根本的な指針は戦後においても変化していなかったとされる。 他方、地域研究の観点からは、1970年代のバーデン・ヴュルテンベルク州において、「フライブルク・モデル」と呼ばれる「新たな動き」(シンティ・ロマや放浪者を西ドイツ社会に包摂しようとする傾向)がみられたことが、先行研究によって指摘された。これは、フライブルクにおいて社会的支援を必要とする人びと向けに「社会住宅」を建設し、地域社会への定着を促すプロジェクトである。加えて、同住宅に併設する形で、社会文化的なボランティア活動を行う市民団体の事務所も開設された。このプロジェクトによって、フライブルクの行政機関による継続的支援が可能となり、シンティ・ロマや放浪者の地域定着を図る政策モデルとして注目されたという。 以上から、ナチス期との連続性がみられるなかで、「フライブルク・モデル」のような動きがいかに生じえたのか、その社会的背景を分析するとともに、それは「新たな動き」と見なしうるものなのか、という新たな検討課題が導出された。現在は、主にこの点について、調査研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・本年度は、「ドイツにおける史資料の収集」を中心とした海外での調査研究に従事予定であったが、渡航制限により、これを断念した。この点において、研究活動は順調ではなかった。 ・こうした活動制限のあるなかで、日本国内で遂行可能な調査研究活動、すなわち、海外からの洋書等の取り寄せを中心とした資料収集と、ドイツの図書館等がオンラインで公開している史資料を探索し、これらを利用することで、本年度の調査研究を可能な限り進めた。その研究成果は、雑誌論文として投稿し、査読を経て公開された(その概要は「研究実績の概要」を参照)。 ・以上のことから、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、本年度実施できなかった「ドイツにおける史資料の収集」を中心とした海外での調査研究に従事予定である。具体的な訪問予定先は、バイエルン州およびバーデン・ヴュルテンベルク州の公文書館ならびに図書館である。同史資料収集においては、本年度明らかとなった新たな検討課題(「研究実績の概要」を参照)に関連するものを重点的に探索する予定である。 上記渡航に併せて、次年度は、ドイツの大学ならびに研究機関においてシンティ・ロマに関する研究に取り組んでいる研究者を訪問し、専門的助言を受ける予定である。 今後は、令和3年度以降の研究成果について、順次公表していく予定である。現在のところ、①バイエルン州およびバーデン・ヴュルテンベルク州を事例とした、シンティ・ロマをめぐる戦後西ドイツの公権力と市民運動の動向に関する発表と、②戦後西ドイツのシンティ・ロマをめぐる優生学の動向に関する発表をそれぞれ構想中である。
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Causes of Carryover |
渡航制限により予定していたドイツにおける調査研究活動が延期され、次年度に実施予定となったため。
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Research Products
(1 results)