2022 Fiscal Year Research-status Report
ツールとしてのナショナリズム:フィリピン人移民によるアイデンティティ構築の過程
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21K17960
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
白石 奈津子 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 講師 (90875460)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | フィリピン / ディアスポラ / ナショナリズム / 表現 / アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
かつてグローバル経済の進展とともにその位置づけを失うと考えられていたナショナリズムは、現代世界においてむしろその勢いを増している。世界各地で同時進行するナショナリズムの深化を、地域・社会によって異なる形態や、当事者たちにとっての意味から明らかにすることが、その現象を実践のリアリティから描きなおすために求められている。本研究は、世界有数の移民送り出し国フィリピンを対象に、理想化された/過去の物語や、その遺物としての「ネーション」の希求に留まらない、戦略性を具えた越境ナショナリズムの姿を明らかにすることを課題とする。特に、様々な制度や現代に新しいツールの存在に着目しながら、国民国家の外側を生きるディアスポラ的主体が手探りで構築する「ネーション」の意味を検討することを目指す。 2023年度の実績としては、まず、フィリピン社会の政治・経済変容に伴う時間感覚のゆがみに着目した論稿を執筆し、その中で、新自由主義的な価値観が社会の中で深化していく中で、「現在」の位置づけが不安定化していること、それが特に長期的、物語的な時間の意味を変容させている可能性について論じた。これは、本研究の課題として提示している「フィリピンという大きな物語の語られ方と自己」の変容にも大きく影響していることを考察として示した。こうした成果公表以外にも、フィリピン現地や日本国内でのいくつかのインタビューを実施できたが、年度後半を中心に、申請者の事情により、予定していた研究関連の企画などを進められなかった側面もある。 来年度以降は、2023年度中に収集したデータの整理を優先して進めながら、実施を延期している企画の具体化と実現に向け、関係者とのやり取りなどを進めて行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2023年度の成果としては、まず、フィリピン社会における不安定化する自己意識の在り方という研究課題との関連の中で、グローバリゼーションのもとでの時間感覚の変化に関する論考を、共著書の中の一章として執筆し公表した。本書は、フィリピン社会の近年みられる変動について論じた共著であり、その中で申請者は、新自由主義的な価値観が社会の中で深化していく中で、「現在」の位置づけが不安定化している状況を指摘し、それが特に長期的、物語的な時間感覚を変容させている可能性について論じた。特に若い世代や、越境的生を生きる人々に顕著と考えられるこの事象は、本研究の課題として提示している「フィリピンという大きな物語の語られ方と自己」の変容にも大きく影響していることが考察から示されている。本稿の出版を通して、本研究課題に関連するインタビューデータの整理にも大きく影響する枠組みを整理できたと考える。 研究データの収集に関しては、①フィリピン地方都市で活動するアーティストへのインタビューとネットワーキング、②日本国内でも活動を行うベトナム系ディアスポラアーティストの展示視察とネットワーキング、③ヨーロッパを中心に展開される古文字復興運動に参加する若者を含めたワークショップの企画(含活動団体主催者へのインタビュー)などを行った。中でも、①から得られたいくつかの視点(フィリピンの表現世界における中心性と周辺性、表現活動と経済問題との関連での戦略性など)をもとに、来年度以降、フィリピンで活躍するアートキュレーターを交えたインタビューとパネル企画を検討している。 他方で、③に記した企画については、申請者の事情により2023年度の後半に海外渡航して研究活動を行うことが難しくなったため、現在延期中である。引き続き、関係者との連絡を密に取りながら、実現に向けて動いていく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に実施したインタビューデータのうちで、整理が完了していないものがあるため、それを進めるとともに、こうしたデータを基盤とした論稿の執筆を計画している。また、昨年度中に企画を進めていたパネル企画等について、関係者の都合を調整しながら実現を目指す。
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Causes of Carryover |
2023年度後半、研究代表者の事情により、海外渡航や海外からの研究者招聘を伴うプロジェクトの実施が困難になったため。2024年度中に、23年度中の遅れを調整しつつ、予定していた招聘企画などを実施して予算を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)