2022 Fiscal Year Research-status Report
性風俗及び「売春」の社会的位置:当事者の視覚からの概念化
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21K17985
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
古橋 綾 岩手大学, 教育学部, 准教授 (60868818)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジェンダー / 当事者 / 社会 / 性搾取 / 日韓比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本における性風俗及び「売春」の社会的位置について明らかにすることを目的としている。具体的には、第一に、性風俗及び「売春」に関連する事項の様相を整理し、当事者へのインタビューを通じて当事者女性たちを見えない存在とさせてきた社会構造を明らかにし、第二に、韓国との比較分析を行い日本の状況の特殊性と性搾取構造の普遍性について考察し、最終的に、当事者の側から諸現象を概念化することを目指す。研究目標の達成のために、①売春防止法制定以後の関連する文献調査及びフィールド調査、②性風俗及び「売春」の現場にいた、または現在も現場にいる女性たちへのインタビュー調査、③韓国との比較研究を遂行する。 2022年度は、①の調査に関して、中村遊廓跡(愛知県名古屋市)、八幡園遊廓跡(愛知県名古屋市)、国分町(宮城県仙台市)、白石遊廓跡(北海道札幌市)、ススキノ(北海道札幌市)でそれぞれフィールド調査を行った。文献調査も国立国会図書館などを利用し進めている。②のインタビューに関連して、当事者との対話を進めているが、本格的なインタビューは実施出来ていない。③の比較研究に関して、韓国の当事者の手記の日本語翻訳『道一つ越えたら崖っぷち――性売買という搾取と暴力から生きのびた性売買経験当事者の手記』(アジュマブックス、2022)を出版し、来日イベント等に尽力した。11月には韓国の関連団体を訪問し、最新の運動についての調査を行った。また、第95回日本社会学会大会にて「韓国において性売買を語ることーー性売買経験当事者の発信に注目して」という研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度の計画は、第一に、文献調査及びフィールド調査を深め、1958年以降の性風俗及び「売春」の盛衰を整理すること、第二に韓国の事例を整理することにあった。 第一の調査に関して、2022年8月には愛知県名古屋市の中村遊廓跡、八幡園遊廓跡で、2022年12月には宮城県仙台市の国分町で、2023年2月には北海道札幌市の白石遊廓跡とススキノでそれぞれフィールド調査を行った。特に仙台では、国分町を行きかう若年女性たちへの声掛け支援をしている団体の方の活動を参与観察させていただき、地域で活動する方々の視点からの問題点を検討した。文献調査も継続して進めている。 第二の韓国の事例に関連した調査では、韓国の当事者の活動を追っている。韓国の当事者の手記『道一つ越えたら崖っぷち――性売買という搾取と暴力から生きのびた性売買経験当事者の手記』(アジュマブックス、2022)を翻訳出版し、いくつかのメディアでも取り上げられた。さらに、2022年11月に韓国の関連施設を訪問し、最近の活動を観察させていただいた。 今年度は、第95回日本社会学会大会(2022年11月12日~13日、追手門学院大学)の「性・ジェンダー(2)」部会で研究発表「韓国において性売買を語ること――性売買経験当事者の発信に注目して」を行った。 2021年度より引き続き、当事者へのインタビュー調査への道を探ってきたが、研究代表者が2022年4月より地方大学へ着任したことで東京での調査が昨年度に比べて困難な状況にある。また、研究代表者が所在する地域で女性支援を行う方との関係性を築いているところであるが、具体的なインタビュー調査には着手できていないため、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、本研究の最終年度であるため、ここまでの研究で得られた知見を整理していく。 第一に、文献調査及びフィールド調査で分かったことを整理する。特に、過去の遺産が現在にどのように引き継がれてきているのかについて注目してまとめていく。フィールド調査を重ねる中で、研究を開始した時には見えていなかった新たな視点が見えてきたので、それを学術的にまとめることに注力したい。 第二に、韓国での「反性売買」研究・運動の成果について整理し、本格的に日本の状況との比較を行う。日本では「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が2022年5月に成立し、2024年4月より施行されるため、政策提言のひとつになれたら良い。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点である。①オーストラリアで開催される予定であった世界社会学会がコロナウイルス感染症拡大の影響のため2023年度に延期になったため、②インタビュー調査が本格的に始められていないため 2023年度に実施するインタビュー調査及び学会参加のための費用として使用する計画である。
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