2022 Fiscal Year Research-status Report
農畜産業施設の経年変化および土地利用変遷に伴う景観価値醸成とその保全方策
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21K18010
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Research Institution | Sapporo City University |
Principal Investigator |
大島 卓 札幌市立大学, デザイン学部, 准教授 (20766331)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ランドスケープデザイン / 農畜産業施設 / 近代化産業遺産 / 観光デザイン / 土地利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では農畜産業を人類の生活に必要な資材を生産する産業であると同時に、地域文化の視覚的投影であるという認識の元、明治期以降日本に導入された西洋農法を基盤とした歴史的農畜産業施設および、戦後の観光・レクリエーションの大衆化を背景に開設された農畜産業施設を研究対象とし、施設周辺地域も含む土地利用変遷によって醸成されてきた景観価値を明らかにしていく事を目的としている。2022年度は以下の調査・取り組みを実施した。 (1)実地調査の実施 明治期に開設され現在まで経営が続いている歴史的農畜産業施設の事例として、①群馬県下仁田町神津牧場の実地調査を行い、牧場敷地内の構成要素(畜舎などの生産施設、境界木などの植栽配置、土地利用など)の確認、山岳型酪農業としての立地特性を把握し、歴史的農畜産業施設の活用実態について知見を得た。次に②栃木県那須塩原市那須千本松牧場の実地調査を行い、牧場敷地内の構成要素(放牧施設、飼育動物種、境界木などの植栽配置、無料施設と有料施設の区分、飲食施設、土地利用、場内に現存する歴史的建造物など)を確認し、地域の歴史的な疏水事業を素地とした牧場の歴史的経緯も含め、観光牧場施設としてのサイトプランについて知見を得た。また、戦後の観光・レクリエーションの大衆化を背景に開設された事例として、③群馬県渋川市伊香保グリーン牧場の現地調査を実施した。1970年に観光牧場として開設され、50年以上経過した敷地内の構成要素(放牧施設、境界木などの植栽配置、無料施設と有料施設の区分、飲食施設、土地利用など)を確認し、傾斜地としての立地特性を活かした牧場内サーキュレーションや眺望性も含め、観光牧場施設としてのサイトプランについて知見を得た。 (2)那須野が原博物館での所蔵資料の閲覧および撮影作業の実施 那須野が原博物館所蔵の絵地図および文献資料について閲覧および撮影作業を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況として、研究計画書に記載した調査候補地((1)明治期以降日本に導入された西洋農法を基盤とし、現在も経営が続いている歴史的農畜産業施設群を対象として、①歴史的価値が明らかにされている事例(小岩井農場:岩手県雫石町)、②民間資本への払下げによって現在も経営が続いている事例(千本松牧場:栃木県那須塩原市)、③明治時代に民間資本によって開設され、現在に至る事例(神津牧場:群馬県下仁田町)(2)戦後の観光・レクリエーションの大衆化を背景に開設された事例(マザー牧場:千葉県富津市、伊香保グリーン牧場:群馬県渋川市、高千穂牧場:宮崎県都城市、六甲山牧場:兵庫県神戸市など))のうち、千本松牧場、神津牧場、伊香保グリーン牧場について実地調査を行った。各施設について、開設年度、敷地面積、所在地などの基本情報加え、①土地利用の経年変化(施設の建て替え、敷地の拡張、ゾーンの整備など、開設後の土地利用の変遷過程について整理)、②牧場敷地の選定経緯、③サイトプラン(敷地計画)の策定経緯、④周辺環境との関係性(周辺地域の産業への影響(観光関連、食品生産)、景観構成の関連(視対象))、⑤牧場施設一覧、といった構成要素の抽出と整理作業を進めている。 また、地域・観光資源の基礎となる農畜産業の歴史的経緯や文化的背景を把握するため、文献史料蒐集調査を実施したのは、(1)群馬県神津牧場、栃木県千本松牧場(国立国会図書館所蔵の文献資料、那須野が原博物館の所蔵資料より実施)となっており、引き続き生産構造や産業形態の変遷等について読解し分析を進めている。以上の点から2022年度の研究については、実地調査で得られた情報分析の点を鑑みやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、以下の3点を挙げる。 (1)農畜産業施設の空間特性・観光・運営実態調査の実施(継続):2年目(2022年)から継続して、①歴史的変遷や社会背景(各農畜産業施設の歴史、地勢・立地特性、生業・生産技術、社会背景)の整理、②空間・施設の構成要因(サイトプラン、建造物、生産器具類、周辺環境との関係)の把握、③運営実態の整理(運営組織、運営事業・手法、年間計画、広報計画など))に基づき、事例ごとの特徴・地域特性などを解明していく。 (2)文献調査の実施(継続):2年目(2022年)から継続して、地域・観光資源の基礎をなす農畜産業の歴史的経緯や文化的背景を把握するため文献史料を蒐集し、生産構造や産業形態の変遷等について読解し分析していく。 (3)各農畜産業施設に見られる空間特性の比較:実態調査で得られた知見に基づき、農畜産業施設および周辺地域に見られる空間特性を考察し、加えて事例ごとの空間特性について比較分析を行う。
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Causes of Carryover |
2022年度に予定していた実地調査の一部(千葉県富津市マザー牧場、宮崎県都城市高千穂牧場など)が新型コロナウィルスの感染拡大にともない延期となったため、現地調査・活動旅費として計上していた金額に余りが生じた。 以上の次年度使用金額と合わせて2023年度の研究費執行にあたっては、物品費として、農畜産業・農村計画・産業観光関係の専門図書購入および印刷用消耗品購入を予定している。また旅費については、アクティビティを高め現地でのコミュニケーションを円滑に行う必要性から2022年度から引き続き相当額を計上し、人件費については調査・分析データの入力補助・図表作成補助員の雇用費用を予定している。
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