2023 Fiscal Year Research-status Report
ヒトの知覚と視覚野のメカニズムを考慮したアモーダル補完の視覚数理モデル
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21K18034
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
満倉 英一 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 講師 (50845948)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アモーダル補完 / 大域的補完 / 局所的補完 / 対称性 / 評価関数 / 曲率 / 視覚数理モデル / 視覚情報補完 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトは物体の一部を他の物体によって遮蔽された領域における形状を補完する。この視覚機能をアモーダル補完という。アモーダル補完は,被遮蔽領域周辺の特徴を用いる局所的補完と,被遮蔽物体全体の特徴を用いる大域的補完に大別される。このようなヒトの視覚情報補完を数理的に捉えると,評価関数が最小となる形状を見出す最適化問題を解いていると解釈される。 ヒトの視覚系は階層構造をなしており,階層や部位毎にその役割は異なる。アモーダル補完に関連するV1野・V2野・V4野は,形状に関する情報を符号化していることが先行研究によって示唆されている。また,本研究において,2022年度の研究成果から遮蔽物体と被遮蔽物体の奥行き関係を3次元面として定義することで,ヒトのアモーダル補完結果の一部を数値シミュレーションによって再現できた。これらの結果から,アモーダル補完の数理モデルを構築するには,視覚情報が統合されるメカニズムの検討が必要であると考えた。 そこで2023年度は,視覚情報の補完と統合に関する心理実験を行った。この実験では,運動残効を生じさせる順応刺激とテスト刺激の重なり位置を操作することで,これらが運動残効に及ぼす影響を調査した。その結果から,ヒトの視覚系において局所情報が大域的情報として補完・統合される過程や,そのメカニズムについて予測が得られた。その研究成果を国内外の学会等で発表した。さらに,ヒトの視覚情報処理特性をもとに,数学教材の提案も行った。 しかし,2023年度は数値シミュレーションについて,良好な研究成果は得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は2022年度までの遅れを改善したうえで,形状の対称性を評価する評価関数を定式化し,数理モデルの構築を試みた。しかし,期待通りの成果は得られなかった。その主な理由として,2023年度に研究代表者の職位が変化したことがあげられる。2023年度は着任初年度相当であり,担当する校務や授業に大幅な変更と増大があった。その結果,研究全体に遅れが生じた。2024年度は研究時間を多く確保するために,2023年度のスケジュールを見直し,改善する。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は,2023年度に生じた進捗の遅れを改善し,研究結果をまとめる。2023年度に引き続き,ヒトの視覚系においてアモーダル補完を表象しているV1野とV2野で符号化可能な量(3次元面の曲率など)を用いて局所的補完に関する評価関数を修正するとともに,大域的補完に関連するV4野で符号化可能な量を用いて評価関数を定式化することで,アモーダル補完結果を再現可能な視覚数理モデルを構築したい。 具体的には,まずShimaya(1997)が曲率を用いて提案した形状の対称性に関する評価関数を元に,数理モデルを構築する。そして,数値シミュレーション結果と先行研究によって得られている心理実験結果を比較し,得られた数理モデルの再現性を検証する。さらに,この数理モデルの特性を解析し,その結果をもとに数理的観点から考察し,3次元曲率を用いた新たな評価関数を提案する。また,2023年度に実施した心理実験結果を参考に,形状補完について,局所情報が統合されるメカニズムを検討する心理実験も行い,その結果を数理モデルに反映したい。 次に,上記の手順で得られた評価関数が最小となる形状を見出す数理モデルを,神経回路網で実装可能な微分方程式として構築する。そのため,モデルの出力は補完領域における初期条件や境界条件に依存すると考えられる。ゆえに,これらを変数とする数値シミュレーションによって提案モデルの妥当性を検証する。特に数値シミュレーションに関しては,本研究の遅れを解消するために,PCを複数台用いて,様々な変数に対する数値シミュレーションを同時に実施する。 得られた数理モデルの妥当性については,ヒトの神経回路網での実装可能性と,心理実験結果の再現性という2つの観点から評価する。 以上の研究成果を日本視覚学会などの国内外の研究会で積極的に発表し,i-Perceptionなどの海外査読付き論文誌にも投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
物価の高騰及び円安によって予定していた購入備品や旅費の見直しが生じた。特に高性能GPUを導入することで並列計算を行い,シミュレーション速度を向上させる計画だったが,その導入を中止したことが主な要因である。また,研究実施に遅れが生じ,予定していた旅費も発生しなかった。次年度は高性能GPUではなく,同時に複数条件下でシミュレーションを実施するために,高性能PCを導入する。よって,主に下記3項目に使用予定である。 ・高性能PCの購入 ・英文査読付き論文誌への投稿費(英文校正,投稿料含む) ・国内外の研究会や学会への参加費及び旅費
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