2021 Fiscal Year Research-status Report
マルチモダリティ医用画像に基づく循環器系力学場の患者別推定のための数理基盤の構築
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21K18037
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 講師 (40778990)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 計算バイオメカニクス / 4D flow MRI / 4D CT / 変分最適制御 / データ同化 / 血行力学 / 渦電流 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度において,MRI計測の速度情報に含まれる渦電流オフセット除去および,変分最適制御に基づく計測速度場の補間手法を構築した.また,肺葉切除に伴う左上肺静脈切除が左心房内の血流動態に与える影響について,胸部4DCT画像に基づく数値流体解析を実施した. 脳脊髄液など低速流れのMRI計測における,渦電流オフセットの自動除去フィルタを開発した.計測領域の全域から,速度がゼロと考えられる固体領域のみを抽出し,渦電流オフセットの空間分布を得た.この情報に基づき,ロバスト回帰による多項式フィッティングにより,渦電流オフセットの空間分布を連続関数として取得し,計測速度場を補正した.既存手法との比較や,複数のMRI機器で得られた速度場での結果から,本フィルタの有用性を示した. MRIの計測速度場について,質量保存および運動量保存則を満足する速度場の補間方法を検討した.問題設定として,速度場を非圧縮粘性流体のストークス流れと仮定し,計測速度場と,補正後の速度場との二乗誤差を最小化する,境界条件の数理最適化問題を考えた.設定したコスト関数に対して,正則化を考慮した汎関数を構築し,変分最適制御による数値解析から,一連のフレームワークの実現可能性を示した. 肺葉切除に伴う左上肺静脈の切除と、左心房内での血栓形成ひいては心原性脳塞栓症との関連が知られているが,そのメカニズムは明らかでない.本問題について,肺葉切除の術前,術後における患者の胸部4DCT画像に基づき、左心房内血流の数値流体計算を行った.結果として,術前では4本の肺静脈から左心房への流入血流は一つの旋回流を形成したが,術後ではこの旋回流は形成されず,左右の肺静脈からの流入血流が左心房中心で衝突し,血流の散逸エネルギが増加した.このことから,左上肺静脈の切除が,左房の大域的な血流動態に大きく影響することを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しており,MRIによる速度場計測におけるオフセット除去技術(Ilik, Otani et al., Magn Reson Med., 2022)や,物理的な保存則に基づく速度場の補間技術(Otani et al., J. Biomech. Sci. Eng., 2022)の構築に成功した.これらの成功を通じて,MRI画像処理から速度場の定量評価までの一連の方法論を構築できた.また,胸部CT画像に基づく左心房内血流の数値解析を通じて,左上肺静脈の切除が左心房の血流動態に与える影響を世界に先駆けて明らかにした (Otani et al., Front Physiol., 2022).血流場の評価にあたり,従来の血流解析でよく用いられてきた運動エネルギなどの巨視的な物理量だけでなく,血液の輸送動態に着目することで,複数の肺静脈から流入する血流が構成する,左心房内の大域的な流れ場の秩序構造の可視化に初めて成功した.この方法論は,今後のMRI計測および数値計算による循環器の血流解析への新しい評価指標としての応用が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,生体内速度場のMRI計測におけるノイズ除去および,物理的観点からの速度場補正の方法論を構築した.2022年度では,速度場の情報に加えて,CINE MRI画像など循環器の運動追跡に秀でた異なる計測情報を組み合わせ,計測される循環器の運動と血流速度場に基づき,循環器系の力学場を評価するための解析手法を構築する. また,循環器内の血流のような血流の混合動態をMRIにより計測するにあたり,計測速度場の妥当性を検証するため,数値解析により構築した既知の速度場に対するMRI計測の数値シミュレータを構築する.これにより,左心室の血流場などの複雑流れに対するMRI計測の妥当性および限界を示すとともに,数値計算との補正を行い,実際に生じる流れ場を推定するフレームワークの構築を試みる.
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Causes of Carryover |
英語論文の校正費について、今年度までに投稿準備が完了しなかったため。2022年度において当初の研究計画に基づき使用する。
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