2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞張力計測に基づく細胞の曲面形状認識・応答挙動の解析
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21K18041
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山下 忠紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (00827339)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メカノバイオロジー / 曲率 / 血管平滑筋細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、マイクロ曲面上で血管平滑筋細胞が接着面に対して及ぼす牽引力の評価に取り組んだ。 研究計画時に構想していた、空気圧操作を用いて血管平滑筋細胞の張力を計測するマイクロデバイスを設計・試作したところ、設計当初に見積もっていた計測精度を満たすことが困難であることが分かった。そのため、平面上に存在する細胞の牽引力を計測する既存手法・マイクロピラーtraction force microscopy (TFM)をマイクロ曲面上での細胞牽引力計測のために拡張した曲面マイクロピラーTFMを構想し、その実現に取り組んだ。直径2μm、高さ5μmの柱状構造体(マイクロピラー)を規則的に配置した、シリコンゴム製マイクロピラーアレイ基板をフォトリソグラフィを用いて製作し、その基板を曲面様構造体に接合することで、直線状のマイクロ凸面(半径500μm)上に規則正しくマイクロピラーが配置されたTFM用細胞培養基板を製作した。マイクロピラー上で血管平滑筋細胞を培養し、ピラー頂点の変位を共焦点レーザー顕微鏡を用いて計測した後、基板の弾性率をもとに算出したバネ定数を乗ずることで、細胞が各ピラーに及ぼす牽引力を定量的に評価した。平面上で培養された細胞と、曲面上で培養された細胞が各ピラーに及ぼす牽引力を比較したところ、これらの差に有意性は認められなかった。上記の実験と並行して、平面状の基板と直線状のマイクロ凸面(半径500μm)基板上で血管平滑筋細胞をそれぞれ培養したところ、表現型マーカーであるαSMAの発現量に大きな差が見られた。 上記の初年度の研究を通じ、血管平滑筋細胞はマイクロ凸面(半径500μm)を何らかの方法で検知して表現型を変化させている一方で、その過程で周辺環境に及ぼす牽引力の大きさを変化させていないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画時に構想していた、空気圧操作を用いてマイクロ曲面上で血管平滑筋細胞が発する張力を計測するマイクロデバイスは、研究を進める過程で目標とする計測制度を達成できないことが明らかになり、設計の修正を行なった。設計修正後のマイクロデバイスを製作するにあたって、その根幹となるマイクロピラーアレイの製作を共同研究者に手伝ってもらうことができ、結果的には当初の予定よりも速やかに血管平滑筋細胞の張力計測を実現した結果、初年度の研究は当初の計画以上に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究を通じ、血管平滑筋細胞は培養面の曲率に応じて表現型を変化させるものの、周辺環境に及ぼす牽引力の大きさを変化させていないことが明らかになった。この結果は、細胞は培養面の曲率という物理的な情報を、何らかの方法で細胞内の生化学シグナルに変換していることを示唆している。2年目においては、血管平滑筋細胞がマイクロ曲面上で示す表現型変化を引き起こす際に引き金となる、細胞の曲率センサーの特定に取り組む。特に、細胞内の最大の構造体である細胞核と、細胞と培養面の接着部である焦点接着斑(FA)に注目し、曲面上で細胞を培養した際の変形や活性度合いの変化と、表現型マーカーの増減の相関を評価する。このような取り組みを通じ、細胞が自身の張力を変化させずとも培養面の曲率を検知する仕組みの実体を明らかにする。
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Causes of Carryover |
初年度は、前年度までの研究でを通じて製作したマイクロデバイス用鋳型を流用し、共同研究先からその他の部品を提供を受けたことで、物品費の使用額が当初の想定よりも大幅に少なくなった。また、細胞培養に関しても、マイクロデバイスのコンセプトを実証するための短期間の培養実験が多かったため、消耗品の使用額も大幅に抑えられた。次年度は、血管平滑筋細胞内の表現型変化の仕組みを調査するため、細胞培養用培地や蛍光染色用の抗体といった消耗品の購入や、必要に応じてRNA-Seqなどの解析を多く行う予定である。
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Research Products
(3 results)