2021 Fiscal Year Research-status Report
抗菌元素―生体組織間相互作用に基づいたチタンインプラントの感染制御
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21K18057
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
島袋 将弥 九州大学, 歯学研究院, 特任助教 (40883434)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | チタン / ポーラスチタン酸化物 / 銀 / 銅 / 亜鉛 / 抗菌性 / 生体内劣化 / 人工関節周囲感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢社会への突入を契機に退行性変性疾患が急増しており、インプラントデバイスを用いた運動機能再建術が積極的に行われている。これに伴い、術後の細菌感染によって惹起される合併症“人工関節周囲感染(PJI)”が益々深刻化している。PJIは術後3か月以内に発症する早期感染と、術後3か月以上経過後に発症する晩期感染に分類されており、術者・患者によって発症時期が大きく異なる。このため、抗菌効果を経時的に制御することができれば、早期・晩期感染の防止が可能となり、運動機能再建術に伴うすべての細菌感染症を解決することができる。しかし、生体内に埋入したインプラント表面では、体液接触による表面変化、タンパク質・細胞接着による表面変化を伴うため、腐食・劣化等の生体内劣化によってインプラント表面に付与した抗菌効果が減弱・消失してしまうことが懸念される。 そこで本年度に実施した研究では、電気化学的処理によってチタン表面上に銀・銅・亜鉛のいずれかを含有する抗菌性ポーラスチタン酸化物を形成し、生理食塩水中に一定期間浸漬することで当該酸化物の性質変化を詳細に調べた。その結果、生理食塩水中に浸漬することで、抗菌性ポーラスチタン酸化物中の銀・銅・亜鉛の濃度は金属イオン溶出によって減少し、元素特有の化学状態変化を示すことが明らかとなった。これらの抗菌性ポーラスチタン酸化物は非抗菌群と比較して優れた抗菌効果を示したが、生理食塩水浸漬によって元素特有の抗菌効果変化を示した。生理食塩水浸漬後も当該酸化物は非抗菌群と比較して抗菌効果を発現していたが、銀含有酸化物では抗菌効果減弱、銅含有酸化物では抗菌効果維持、亜鉛含有酸化物では抗菌効果向上することが明らかとなった。このため元素種の選定によって、早期・晩期感染の防止に有効な新材料表面の創製が可能であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画では、抗菌性ポーラス酸化物の創製と、擬似体液浸漬による当該酸化物の表面性状変化を明らかにすることであった。本年度の研究成果は、チタン表面に形成した銀・銅・亜鉛のいずれかを含有する抗菌性ポーラスチタン酸化物層を生理食塩水に一定期間浸漬することで、酸化物層中に導入した抗菌元素の時間依存的な濃度変化・化学状態変化・抗菌効果変化を明らかにすることができた。とくに導入した元素によって、特有の抗菌効果変化を示すという新たな知見は、抗菌効果制御に有用な知見であり、人工関節周囲感染の早期・晩期感染を防止する新材料表面の創製に貢献する可能性がある。このため本年度の研究は、本研究課題の核心をなす学術的「問い」(抗菌効果を経時的に制御する表面の設計は可能か?)を踏まえるとおおむね順調に達成したと判断できる。課題として、材料表面の深さ方向の分析を達成できなかった点が挙げられるが、2023年度以降に実施する研究(電気化学的処理による抗菌元素の分布制御と抗菌効果の経時的制御)で対応することを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、2022年度より研究代表者の所属大学が変更になったため、研究環境整備・研究実施を同時に行う必要がある。とくに本年度は動物実験を予定していたが、学内動物実験申請に時間を要することが懸念される。このため、2023年度実施予定の新材料表面創製(実験動物を使用しない研究)を並行して行っていく予定である。以上により、代表者の異動に伴う研究の遅れを最小限にすることで、本研究課題の核心をなす学術的「問い」(抗菌効果を経時的に制御する表面の設計は可能か?)に対する答えに辿り着くことができると考える。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況としては、代表者の異動が2021年度前半に決まったため、翌年度以降の研究計画を考えると消耗品等への研究費使用を抑える必要があったことが理由である。また翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、異動に伴う移管費用への充当および異動先での研究環境整備のために使用する予定である。
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Research Products
(5 results)