2021 Fiscal Year Research-status Report
Spinon Fermi surfaces and spinon pairing condensate: exploration of quantum spin phases with fractionalization and entanglement
Project/Area Number |
21K18144
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鹿野田 一司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20194946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮川 和也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90302760)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | スピン液体 / スピノンフェルミ面 / 強磁場 / 核磁気共鳴 / 輸送特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「スピン液体」の微視的状態の理解を目指している。対象とする物質は有機スピン液体候補物質であるk-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3とEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2である。 研究初年度では、スピン液体を説明する一つのモデルであるスピンノンフェルミ面の検出を目指して核磁気共鳴および高磁場物性の測定を行った。 スピノンのフェルミ面が存在する場合、物理量に磁場に対する量子振動が期待される。この検出を目的として、東京大学物性研、国際超強磁場科学研究施設のパルス磁場を利用してトルク、磁気熱量効果、誘電率、超音波速度、電気抵抗測定を行った。両塩ともに50 Telaまで明瞭な量子振動は観測されなかった。一方で、k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3はEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2よりも大きな磁場依存性を示し、6 Kという特徴的な温度で磁気熱量効果と超音波速度の磁場依存性に顕著な変化が見られた。これに対してEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2では特徴的な温度の存在は確認できないなど両塩に違いがみられた。 また、k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3について1H NMR測定を常圧で行った結果、スピン-格子緩和率は6K付近までは13C NMRのそれと同じ温度依存性を示すのに対し、それ以下では違いが生じ、3K付近でピークを観測した。この起源を探るべく、磁場強度および印加角度依存性の測定を行い、試料依存性も調べた。その結果、緩和率のピーク構造は、異なる試料でも観測され、磁場方向依存性が無く、磁場強度とともに抑制されることが分かった。 また、ドープされたスピン液体の候補物質として注目されているk-(BEDT-TTF)4Hg2.89Br8の13C NMR研究も開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、計画通り50テスラのパルス強磁場中での物性測定を開始することができた。有機物質は割れやすく、測定中の結晶の保持や結晶への電気的な接触の取り方など未経験なことが多かったが、スピノンフェルミ面の検出手法として有効なパルス強磁場実験(トルク測定、誘電率測定、磁気熱量効果の測定、超音波測定)を開始することができたことは本研究が順調にスタートしたことを意味する。期待されている量子振動はまだ観測されていないが、測定を行った2つの有機スピン液体候補物質が磁場に対して異なる振る舞いを示したことは想定外のことで、スピン液体状態にも多様性が潜んでいるという新たな知見が得られた。k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3については、1H NMRのスピン-格子緩和率に低温で顕著なピーク構造が観測されるなど、スピン液体状態に繋がるこの物質の特異性を見出すことができた。 k-HgBr塩の13C NMR実験に際し、超伝導状態において印可磁場が伝導層と平行になっているロックイン状態の実現をNMR装置を利用した交流磁化率測定を行うことで高い精度で知ることができた。これにより、超伝導の対称性を議論できるデータの取得が可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン液体候補物質であるk-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3とEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の強磁場物性の測定を今後も続けて行う。さらに、k-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3については、1H NMRの圧力依存性を調べる。特に、圧力を変えてスピン液体が金属相にモット転移する過程で、低温で現れる鋭い緩和率のピーク構造がどのように振る舞うかを追跡する。 さらに、スピン液体にキャリアーがドープされた系として注目されている物質k-(BEDT-TTF)4Hg2.89Br8の研究を加速させる。この物質は、圧力によって、伝導性、磁性、熱電特性が大きく変わることが示されており、加圧によりドープされたスピン液体から通常の強相関金属にクロスーバーすることが示唆されている。これに伴ってフェルミ面のトポロジーが変化することが期待されるが、それを観測し、母体となるスピン液体との関連を探る。 k-(BEDT-TTF)4Hg2.89Br8の13C NMR測定についても、温度域、圧力域を拡大して行い、常伝導金属の電子状態と超伝導における電子対の対称性を探る。
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Causes of Carryover |
本研究で用いる寒剤の使用量と価格の変化により差額が生じた。さらに、研究成果の公表、議論のために国際、国内会議(学会)などへの参加や共同研究実施のための旅費を計上していたがCOVID-19の世界的流行により、それが難しくなったため差額が生じた。 これらの差額分は次年度に実施する実験に使用する寒剤や国際会議、実験などへの旅費に使用する。
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