2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of a precise oxygen mapping method for malignant tumors using electron paramagnetic resonance
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21K18165
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平田 拓 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60250958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲波 修 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10193559)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / 酸素分圧 / 腫瘍 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、悪性腫瘍における酸素分圧を高精度に可視化する連続波電子スピン共鳴分光イメージンク法の理論と技術を構築することを目指している。具体的には、窒素同位体で標識した二つの分子プローブを用いるコンセプトにより、4 mmHg以下の計測精度を有する三次元酸素分圧計測の実現を目指す。初年度となる今年は、高精度酸素分圧計測を行うための標準試料となるラジカル水溶液の作製法について実験条件および測定法を確立した。具体的には、標準試料となるラジカル水溶液の酸素分圧を、クエンチングを利用した光ファイバセンサにより高精度で測定する手技を獲得した。また、ラジカル水溶液のラジカル濃度を正確に定量するため、Xバンド電子スピン分光計測およびスペクトルフィッティングを適用した。これにより、酸素分圧およびラジカル濃度を高精度で定量することが可能になり、今後の酸素分圧測定の校正データ取得の準備ができた。 酸素分圧測定の基礎となる緩和時間マッピングの精度を向上させるため、磁場勾配のヒステリシスの影響を確認する実験を進めた。磁場勾配のシーケンスによって緩和時間マッピングの精度が変化することが分かった。これは、マグネットのヒステリシス効果により磁場勾配のステップ状の変化を正確に実現できていないことが原因である。磁場勾配の線形性を改善するシーケンスの開発が必要である。 酸素分圧モニタOxyLiteを用いて、腫瘍および正常組織の酸素分圧測定を試みた。直径0.35mmの光ファイバ酸素分圧/温度プローブを用いて、マウスに作製した腫瘍の酸素分圧測定を試みた。実験手技を検討し、光ファイバプローブの腫瘍組織への刺入をファイバの損傷なく実施できるようになった。酸素分圧測定の時間応答が早くないことが明らかとなったが、十分に計測が安定してから酸素分圧を取得することで、応答時間に関する課題を解決することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の最終ゴールとなる腫瘍モデルマウスの高精度酸素分圧イメージングを実現するために、個別の技術課題を解決する必要がある。以下の三項目はいずれも研究の最終目標に貢献するものであり、研究が進んでいることを示している。その根拠となる理由は以下の通りである。 (1) 酸素分圧マッピングの標準試料を高精度で準備できるようになったこと。 (2) 緩和時間マッピングに影響を与える磁場勾配シーケンスの検討を進め、緩和時間マッピングの精度低下の原因を特定できたこと。 (3) 電子スピン共鳴イメージングによる酸素分圧測定の検証実験を行う際の比較対象として、腫瘍モデルマウスの侵襲的酸素分圧測定が想定される。そのための酸素分圧計測を行うことができたこと。 以上のことから、「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の目標を実現するために、以下の研究項目を推進する。 (1) 緩和時間マップを取得する際の磁場勾配のステップ幅を精密に制御する手法を構築する。この磁場制御シーケンス制御のために、印加される磁場勾配を精密に計測し、制御シーケンスの改良に反映させる。この項目の成果は、磁場勾配を制御するシーケンスの改良により緩和時間マップの平坦度を改善し、酸素分圧マッピングの精度向上に貢献する。印加される磁場勾配のステップ状の制御が永久磁石の特性により阻害されることが原因であるが、永久磁石の特性を打ち消す制御シーケンスを求めることができれば、磁場勾配に関連する課題を解決することができる。 (2) 酸素分圧とプローブ濃度、電子スピンの緩和時間の関係を明らかにするために、高精度で校正曲線を取得する。校正曲線を精度よく取得することは、酸素分圧マッピングの精度向上に必須である。この校正曲線の取得には、高精度で酸素分圧とプローブ濃度を定量した標準試料を用いる。校正曲線の取得には、計測毎のばらつきを除去する必要があり、複数回の測定を実施する(少なくとも3回を予定)。また、測定結果を近似する連立方程式を求めることにより、高精度な校正曲線を取得する。 (3) 緩和時間マップから酸素分圧とプローブ濃度を求める数理モデルを検討し、安定かつ高精度で酸素分圧を推定できるようにする。連立一次方程式を解くことにより酸素分圧とプローブ濃度を求めることができるが、条件の悪い連立一次方程式であるため、数値的に安定した解法には工夫が必要である。この解法は、高精度な酸素分圧マッピングの実現に必須の項目である。連立方程式の解法では正則化の手法を検討し、安定な解を得られるようにする。
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Causes of Carryover |
電子スピンの緩和時間マッピングの精度向上を目指して磁場勾配制御シーケンスの検討を進めていたところ、当初予定していたよりも複雑な制御が必要であることが判明し、その課題を解決することなしに緩和時間マッピングの精度向上が実現しないことが分かった。そのため、当初想定していた緩和時間マッピングの実験を一旦中断し、磁場勾配制御シーケンスの課題を優先することにした。その結果、緩和時間マッピングの実験に使用する予定であったラジカル試薬や、化学実験の消耗品が使用されなかった。これらの事情から、未使用の経費を次年度に使用することになった。 次年度は、上に述べた課題を解決すると共に、緩和時間マッピングに関わる複数の実験を行うため、未使用の経費はイメージング実験に用いるラジカル試薬や消耗品に充当する計画である。
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