2021 Fiscal Year Research-status Report
Relay runner-like spin transport with electron-hole exchange interaction and its application to magnetologic gates
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21K18166
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
酒井 政道 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40192588)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉住 年弘 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (00838039)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 交換相互作用 / 近藤効果 / スピン流 / 電子-正孔補償金属 / 排他的論理和ゲート / スピン注入 |
Outline of Annual Research Achievements |
リレー走者が次の走者にバトンを手渡すように、電子間でスピンを受渡すことによって、スピン情報を輸送することができるのであれば、スピン反転は必ずしもデメリットではない。私たちは、スピン依存型電子間相互作用を使って、バトンリレー型スピン中継機能を次世代型デジタル論理演算のデザインへと適用することで、新たな観点からのスピン情報中継機能の開拓や論理演算素子の省電力化を指向する基礎研究を行っている。研究の主な特色は、スピン依存型電子間相互作用の舞台として電子-正孔補償金属(EHCM)を使うことによって、電子スピン流と正孔スピン流を同時に利用するというアンビポーラ性を導入する点である。2021年度では、電子スピンと正孔スピンをEHCMに注入するメカニズムを理論的に明らかにしつつ、EHCMとしてPtに着目した実験的研究を行った。 (1)EHCMへのスピン注入機構に関する理論的研究 強磁性とEHCMから構成する単一ヘテロ界面を電流が横断する際に発生するスピン蓄積ならびスピンー電荷結合界面電位差を、界面における電流密度、スピン流密度および化学ポテンシャルの連続条件に基づいて解析的に求めた。その結果、電子と正孔とがスピン交換相互作用するEHCMにスピン注入するには、強磁性体側にキャリヤパラメータの異なる2種類の伝導電子が用意される必要があることが分かった。一方、スピン交換相互作用のない場合は、その限りでない。 (2)Ptをチャネルとするスピン偏極電流注入下Hall効果測定 Ptは、大きなスピン軌道相互作用を持つ材料として、スピントロニクスでは欠かせない材料であるが、そのフェルミ面形状から、電子-正孔補償金属であることが知られている。スピン注入電極として、希土類遷移金属フェリ磁性体を使った場合には、異常Hall効果的信号が観測されたのに対して、Niを使った場合にはそれが観測されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画全体は、3つの内容から構成される。すなわち、(1)非磁性補償金属Zn, Sn, Sb, Pd, およびPtを想定し、電子および正孔スピン輸送に対する磁性不純物の影響を調査すると云う第1段階、(2)1入力(書込み)-1出力(読出し)構造を製作する第2段階、(3)スピンXORゲートを指向し、2組の1入力-1出力構造を一体化し、2入力-1出力構造の素子を作製すると云う第3段階の3つである。2021年度では、上記(1)から着手するに当たって、強磁性体から電子ー正孔補償金属(EHCM)へのスピン注入メカニズムを理論的に調査し、スピン交換相互作用するEHCMにスピン注入するには、強磁性体側にキャリヤパラメータの異なる2種類の伝導電子が必要があることを見出した。 2021年度では、EHCMとしてPtに注目し、スピン注入源として強磁性体Niを使った実験と、希土類(Re)遷移金属(T)フェリ磁性体を使った実験を行った。前者のNiは、単一キャリヤ伝導体であるのに対して、後者のReTフェリ磁性体は、2キャリヤ伝導体と考えられる。その結果、スピン偏極電流によってPtが異常Hall効果を示すのは、後者の場合であることが分かり、理論計算と矛盾しないことが分かった。従来から、Ptの持つ大きなスピン軌道相互作用を利用したスピンホール効果の研究は多いが、ReTフェリ磁性体を使ったPtへのスピン注入研究はこれがはじめてと思われる。一方、EHCMのスピン輸送に対する磁性不純物の影響を調べる点については、磁性不純物としてFeに注目して、Ptへのドーピング方法を検討中であり、測定する段階には至っていない。 以上を鑑み、進捗状況として「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画全体は、(1)非磁性補償金属Zn, Sn, Sb, Pd, およびPtを想定し、電子および正孔スピン輸送に対する磁性不純物の影響を調査すると云う第1段階、(2)1入力(書込み)-1出力(読出し)構造を製作する第2段階、(3)スピンXORゲートを指向し、2組の1入力-1出力構造を一体化し、2入力-1出力構造の素子を作製すると云う3つの段階から構成している。2021年度では、EHCMとして、Ptを使った研究に着手したので、2022年度では、Ptに加えて、SnおよびZnを使った研究に着手する。私たちの先行研究によって、希土類金属のYbが、EHCMであることが分かったので、Ybを使った研究も着手したい。これらEHCMへの磁性不純物ドーピング方法の確立は、2022年度の課題である。加えて、2022年度には、上記(2)の1入力(書込み)-1出力(読出し)構造を製作する第2段階に着手すると共に、動作結果の検証には、1入力(書込み)-1出力(読出し)構造におけるスピン輸送の理論計算が必要である。
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Causes of Carryover |
当初の予算執行計画に沿って、2021年度に小型微細形状測定機、システム・ソースメータ、および小型マニュアルプローバーを購入した。このうち、小型微細形状測定機については、当初の見積段階では、空気ばね式除振台の使用を見込んでいたが、製造業者による設置場所の振動環境調査によって、簡易型除振台でも同様の性能が得られることが判明したので、見積金額と実際の購入金額に差額が発生した。このことが、次年度使用額が生じた主な理由である。今後、スピン流デバイス製作の材料として、高価格のPtやAuなどを使用するので、これらの購入に充てる。
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