2021 Fiscal Year Research-status Report
ドーパントの価数ごとの立体原子配列を観測する小型測定装置の研究
Project/Area Number |
21K18184
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
松下 智裕 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (10373523)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 文彦 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 教授 (60324977)
水野 潤 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (60386737)
橋本 由介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60872877)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2026-03-31
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Keywords | 電子エネルギー分析器 / ドーパント / 原子配列 / 光電子ホログラフィー / 原子分解能ホログラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は電子エネルギー分析器の革新とそれを用いた最新材料のドーパントの化学状態毎の立体原配列の解析の実現を目的とする。測定原理は以下である。試料に電子線を照射し、ドーパントからオージェ電子を励起する。このオージェ電子の放出角度分布はドーパントの周囲の立体原子配列を記録したホログラムとなっている。ここからドーパント周辺の立体原子配列が得られる。また、ドーパントの化学状態によって、オージェ電子の運動エネルギーがケミカルシフトするため、これを利用してドーパントの化学状態毎の立体原子配列が得られる。この実現には±45°以上の広い立体角で電子を検出しつつ、高い分解能を持つ電子エネルギー分析器が必要である。本年度はこの新型の電子エネルギー分析器の設計を行った。電子エネルギー分析器は松井共同研究者らが発明した平行化レンズと研究代表者らが発明したエネルギー分解能を向上させるための阻止電場型電子エネルギー分析器(RFA)との組み合わせである。装置の要は平行化レンズ部の楕円型メッシュ電極の開発、およびRFAの阻止電場長の最適化である。楕円メッシュの電極については、水野共同研究者により電極の加工方法から根本的に検討を行った。楕円電極板に穴を空けるのだが、法線方向に穴を空けると電子の軌道と平行にならず、問題となったため、穴の加工法を検討した。次に、最適な阻止電場の検討を行った。放射状に放出された光電子が平行化レンズで平行な電子軌道に変換されるが、収差が残る。阻止電場によって収差が増幅されることがわかり、収差の許容範囲とエネルギー分解能が天秤になっていることが分かってきた。この最適な長さの検討を行った。併せて電子レンズの設計、チャンバーの設計などを進めた。想定より、電場計算に時間がかかったため、電子エネルギー分析器の発注を翌年に行うこととし、次年度に購入予定の電子銃を前倒しで導入を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は電子エネルギー分析器の設計を進めた。この分析器は、放射状に広がる電子を平行にする平行化レンズ、エネルギー分解能を向上させるための阻止電場型電子エネルギー分析器の組み合わせである。最適な組み合わせ条件を探すための電場計算を行った。電場計算では解析的な計算、イオン光学計算ソフト(SIMION)、自作の計算ソフトの3つの方法を使用して検討を行った。自作のソフトは様々な電子の発生条件を作るために開発した。この研究により、エネルギー分解能を上げるための長い阻止電場を設けると、平行化レンズのわずかな収差が増幅し、良好なホログラムの像が得られないことが分かってきた。収差を押さえつつ、エネルギー分解能も確保できる設計に時間を費やした。また、想定外の問題に対応するため、レンズ部を簡便に変更できる機構、例えば阻止電場長さの変更や電極メッシュの交換ができるように設計に工夫を加えた。次に、楕円メッシュの電極について加工方法の検討を行った。楕円の電極板に対して微細なドリルで穴を空ける加工法を採用した。これは以前の阻止電場型電子エネルギー分析器を作成する際に、球面にドリル穴を空けて、高性能な電極を作成することに成功した経験に基づいている。しかしながら、楕円面の法線方向に穴を空けると、電子の軌道と平行にならないため、これが問題となることがわかり、前回の加工方法と比べて格段に難しいことが分かった。そこで、様々な加工法の検討を行った。この加工の検討については順調に進んだ。電子エネルギー分析器本体以外にも、チャンバーの設計など周辺装置の設計も進めた。想定より、電場計算に時間がかかったため、電子エネルギー分析器の発注を翌年に行うこととし、次年度に購入予定の電子銃を前倒しで導入して、全体としては予定が遅れない形にした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は実際に設計した電子エネルギー分析器の部品を製作して、組み立てていく段階に入る。来年度にはレンズ部、真空チャンバー、周辺パーツの設計を完成させ、それぞれのパーツの製作をおこなう。また、マイクロ穴を持つ楕円電極も完成させ、電子エネルギー分析器としての必要なバーツを全て揃える。パーツが揃ったところから、電子エネルギー分析器を組み上げていく。組み上げ工程は以下のように考えている。レーザ測量機などを用いて、レンズの作成・組み上げ精度の確認と調整を行う。また、電場・磁場について、設計と実測の誤差の確認をする。問題が無ければ、装置全体を組み上げ、電子レンズ、電子銃、試料保持部の設置精度の確認をする。その後に、装置の超高真空立ち上げをする。順調に進めば、電子銃の各機材の動作確認、電源動作の確認、マイクロチャンネルプレート上の電子の検出の確認へと進む。途中で問題があれば、パーツの再加工などを行い、設計通りの動作をするように、段階を踏みながら確認を進め、設計通りの動作になるまで、電子エネルギー分析器のチューニングを行う。チューニング手順としては測定治具に電子ビームを照射して、放射状に広がる電子を生成する。この電子を用いて、電子エネルギー分析器から得られる光電子放出角度分布の精度、エネルギー分解能などの確認を行っていく。予定通りの性能が得られれば、すぐにでもドーパントの原子配列の観測を始め、先端材料開発に必要な物性データを観測へと繋いでいく。
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Causes of Carryover |
8月中旬の採択の通知後から、電子エネルギー分析器の詳細な検討に入った。電子エネルギー分析器は前段の平行化レンズと、高分解能化のための阻止電場型電子エネルギー分析器との組み合わせである。提案段階では既に2つパーツのそれぞれの製作の経験を有していたため、これを組み合わせるだけと考えており、短時間で設計が可能なように思われた。2つのパーツを組み合わせて、かなり詳細な電場計算をした結果、前段のレンズで生じた収差が後段の阻止電場型電子エネルギー分析器によって拡大されることが分かってきた。エネルギー分解能を極端に上げると収差が広がり、ホログラム像が歪む。エネルギー分解能と収差をバランスした設計が必要になることが分かり、設計の自由度が大幅に制限されることが分かった。この詳細検討を徹底的に行うことにした。設計と電場計算、電子軌道のトレースについて、多くのパターンを試して時間をかけたため、年度内に予定していた特注レンズの発注を次年度にしたことが主な原因である。またコロナによって現地打ち合わせ会議を行うことができなかったため、旅費に関しての予算が未使用となったことも一因である。
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