2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K18204
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
荒井 孝義 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (80272483)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | クーロン相互作用 / 赤外光 / 振動エネルギー / 反応化学 / フロー合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学反応において、高い立体選択性を得ようとすれば、通常、反応温度を下げる。一方、反応温度を下げれば、反応は遅くなり、反応効率は悪化する。このジレンマを解消するには、低温反応条件下において、反応点となる官能基のみを合目的に活性化する手法が必要になる。原料や生成物は勿論、反応に用いる試薬ならびに触媒には、各々の分子が機能するために重要な官能基が存在し、それらの官能基には特徴的な赤外吸収(特性吸収帯)が存在する。本研究では、赤外光を用いることで「官能基選択的な活性化」を実現し、反応化学、触媒化学、合成プロセスに新手法を提供することを目的としている。 これまでに研究行ってきた赤外光によって加速が期待される代表的な反応系(ニトロアルケンへのチオールの共役付加反応など)について、反応基質が有する特性吸収帯に対応する赤外光の照射によって反応が加速されることを確認した一方、明瞭な吸収帯を有さない領域の波長の光を強く照射しても有意な加速を確認されず、官能基選択的な光加速効果が確認されてきた。 とくに、2023度は特に赤外吸収の強いカルボニル基を有する分子を中心に、求核基質にカルボニル基を有する反応系、求電子側の基質にカルボニル基を有する反応系(もしくはその双方)を検討した。カルボニル基を導入した基質を用いる事でより効果的に反応加速を確認できたが、生成物にカルボニル基が残存する場合には逆反応も起こりやすく、比較的速い平衡状態となることも確認された。赤外吸収を基軸とする反応開発の特徴かもしれないが、熱反応としても理解できる結果であり、熱反応との差別化が困難であることも示している結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に導入した「卓上型核磁気共鳴装置」により、多くの反応を逐次的に解析できるようになり、赤外吸収を基軸とする反応の特徴を分類できるようになってきた。研究計画書に当初申請していた「卓上型単結晶X線結晶構造解析装置」については、千葉大学共用機器センターに新型の大型単結晶X線結晶構造解析装置が整備され、精度良く分子構造並びに分子間相互作用を解明することができるようになっている。これにより、「研究実績の概要」に記載の成果を着実に得ている。 赤外光による反応特異性については、現状熱反応との差別化が不十分であり、改善しなければならないが、反応加速の効果は確認できており、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、赤外光によって反応が加速される系を見いだすことができているが、その多くは加熱反応でも実施することが出来るものであり、赤外光に特異的な反応とはなっていない。最終年度は、赤外光が真に官能基選択的に分子活性化しなければ進行しない反応系、具体的には金属カルボニル基を有する触媒の赤外光による選択的活性化やタンデム反応による平衡系からの脱却などを計画している。 溶液状態では分子運動による熱拡散も反応結果が熱反応によるものと差別化し難い要因になっている。熱拡散の影響を軽減するため、粉末もしくは結晶表面での反応への赤外照射も検討する計画である。この目的には、千葉大学共用機器センターに導入された単結晶X線結晶構造解析装置ならびに粉末X線結晶構造解析装置を用いる。 さらに最終年度の研究では、研究計画で立てた最終目標である二酸化炭素の赤外光励起にも取り組む。気体の二酸化炭素は勿論熱拡散が大きいため、MOFによるガス吸着や固体触媒による活性化などと融合して研究を推進する。
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Causes of Carryover |
スターラーの購入により物品費ですべて執行予定であったが、スターラーの納期が2023年度内に間に合わないことが判明したため、年度内に緊急性の低い試薬などを無理に購入することなく、2024年度使用額とすることで、より効果的に予算を執行できると判断した。
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