2023 Fiscal Year Research-status Report
A pair of 5-HT neurons responsible for emotional contagion in Drosophila
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21K18238
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
齊藤 実 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 副所長 (50261839)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒見 坦 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (30009633)
鈴木 力憲 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (80836172)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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Keywords | 情動伝染 / セロトニン作動性神経 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究からショウジョウバエも、集団では翅を目安として他者の熱逃避行動の観察から自身の熱逃避行動を亢進させる逃避伝染が起こること(個別での熱逃避行動より、集団での熱逃避行動の逃避スコアが高い)、この集団効果に特定の神経細胞クラスター(PMPDクラスター)内のセロトニン(5-HT)作動性神経細胞(PMPD-5-HT神経細胞)が関与していること、PMPD-5-HT神経細胞はFan-shaped body (FB)の6層と楕円体のR3層に軸索を投射していることなどが分かった。今年度は熱逃避行動に加えて電気ショックからの逃避行動にも視覚情報に依存した集団効果があることを確認した。さらに視覚情報による逃避伝染の確証を得るため、デモンストレーターと翅を切ったオブザーバーを分けて、透明な仕切り越しにデモンストレーターの逃避行動を観察するduplex assay系を開発し、デモンストレーターの逃避行動をオブザーバーに観察させた。その結果、デモンストレーターがいない時と比較してデモンストレーターがいるときはオブザーバーの逃避行動が上昇すること、しかしデモンストレーターの翅が無いと、オブザーバーの逃避行動は上昇しないこと、さらに逃避行動でないデモンストレーターの逃避様行動はオブザーバーの逃避行動には影響を与えないことなどが分かった。さらに抑圧ストレスや飢餓ストレスを受けたオブザーバーはデモンストレーターの逃避行動を見ても自身の逃避行動は上昇しないが、ストレスを受けたデモンストレーターの逃避行動を見たときはオブザーバーの逃避行動は上昇することなども分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
脊椎動物ではオキシトシンが情動伝染に必要なホルモンとして知られている。しかしショウジョウバエにはオキシトシンも類似のホルモンも発現していない。オキシトシンを発現しないショウジョウバエも情動伝染を起こすのか?現在まで集団で熱逃避行動が上昇すること、各種感覚変異体を用いることでこの集団効果が、翅を手掛かりとした視覚情報によることを明らかにした。また熱逃避だけでなく、電気ショックに対する逃避行動も集団で亢進すること、これがやはり視覚情報に依存していることも確かめた。さらにduplex assayを用いることでオブザーバーのショウジョウバエも脊椎動物同様、他個体(デモンストレーター)の状況を観察することで熱逃避行動を上昇させる逃避伝染が起こることを明らかにした。ショウジョウバエはオキシトシンや類似ホルモンを発現していないが、ホモホロジー検索からオキシトシン受容体と類似性を持つタンパクが検索された。そこでこれらタンパクの発現を抑制したが熱逃避行動の集団効果は抑制されなかった。以上の結果からショウジョウバエはオキシトシンシグナルに依らずに逃避伝染を起こすことが強く示唆された。前年度PMPD-5-HT神経細胞が軸索を投射するFan-shaped body (FB)の6層の5-HT2B受容体の逃避伝染への関与を示したが、PMPD-5-HT神経細胞の投射先には5-HT7受容体も発現していることがデータベース解析から示唆された。そこで投射先の脳領域で5-HT7受容体のノックダウン系統を作製して調べたところ、集団効果は抑制されなかった。現在これらの知見の統計学的有意性を得るための実験を進めているため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究からPMPDクラスターを形成するPMPD-5-HT神経細胞が逃避伝染を制御することが示唆されており、これに準じて軸索投射部位で5-HT2B受容体を抑制すると逃避伝染が抑制されることを見出している。またPMPD-5HT神経細胞からの出力を熱遺伝学的に阻止すると逃避伝染が抑制され、逆に活動を上げるとそれだけで逃避行動が更新することも分かった。今後はこのPMPD-5-HT神経細胞が実際に、自身が嫌悪刺激を受けた時だけでなく、他者の逃避行動を見た時も活性化されることを実証する。すでに神経活動のマーカーとしてリン酸化ERKに対する抗体を用いた解析からPMPD-5HT神経細胞が他者の逃避行動を観察した時も活性化されることが示唆されている。しかし抗リン酸化ERK抗体を使った免疫組織化学的解析では活性化された神経細胞の特異性が不確定である。そこで紫外線照射後に活性化された神経細胞を特異的に標識するCaMPARI (Calcium Modulated Photoactivatable Ratiometric Integrator)をPMPD-5-HT神経細胞に発現させた系統を用いて、PMPD-5-HT神経細胞が他者の逃避行動を見た時にも活性化されるか、また個別飼いにして逃避伝染が発達しない個体では他者の観察によるPMPD-5-HT神経細胞の活性化が抑制されているのかなどを検証する。
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Causes of Carryover |
PMPD-5HT神経細胞の活動を調べる実験を担当する留学生の到着がコロナ禍で遅れた。このため実験の進行が遅れ、必要な経費が使用されず次年度使用額が生じた。次年度では今後の推進方策にある通り、CaMPARIを用いたPMPD-5HT神経細胞特異的な活動を行う。このため紫外線照射装置の作製や系統の作製費に使用する。具体的にはdemonstratorに熱刺激を与え、紫外線照射下でobserverは熱刺激を受けることなく観察窓越しにdemonstratorの様子を観察できるtwo chamberセットを作製する。これによりobserverのPMPD-5HT神経細胞が自身は熱刺激を受けずとも、他者の逃避行動を見るだけで活性化されるか?自身がストレス下にある時PMPD-5HT神経細胞は自身への熱刺激に対しては活性化されるが、他者の熱逃避行動をみても活性化されないか?などPMPD-5HT神経細胞の逃避伝染でのゲート機構としての働きを実証する。
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