2022 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集とiPS細胞やオルガノイド培養技術を用いたヒトモデル表現型解析系の開発
Project/Area Number |
21K18247
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水口 裕之 大阪大学, 大学院薬学研究科, 教授 (50311387)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | ゲノム編集 / iPS細胞 / オルガノイド / 肝臓 / 腸管 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ゲノム編集技術とヒトiPS細胞やオルガノイドを用いた細胞分化誘導系を利用して、特定遺伝子のヒトモデルでの表現型解析系の開発を行うことを目的とする。遺伝子組換えマウスの普及は、個々の遺伝子の機能解明研究に“最終的な答え”を提供し、生命科学研究に決定的な貢献をしてきた。しかしながら、遺伝子組換えマウスを用いた研究成果がヒトに外挿できないことも多く、『種差』の問題があった。そこで本研究では、創薬応用の観点からも重要な組織である肝臓と腸管に焦点をあて、ヒト肝発生や肝幹前駆細胞から肝細胞/胆管上皮細胞への分化選別、ヒト腸管幹細胞から腸管上皮細胞への分化過程に関与する各種分子の機能解明、非アルコール性脂肪肝疾(NASH)関連分子であるMAIP1を実証例として、ヒトモデルでの汎用性の高い表現型解析法を確立する。R4年度は、以下の成果を得た。 1)昨年度確立したゲノム編集技術が、ヒトiPS細胞だけでなく、ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドにおいても適用できることを確認した。 2)前年度にTolloid-like1(TLL1)は肝幹前駆細胞から胆管上皮細胞への分化を促進することを明らかにしたが、R4年度はTLL1は肝星細胞から主に産生され、TGFβシグナルの活性化を介して胆管上皮細胞の成熟化に寄与していることを明らかにした。 3)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析を目的に、オルガノイドの単層培養化等で腸管機能を上昇させる培養条件の検討とRNAseq解析、および化合物を用いた阻害実験を行った。 4) 我々が同定したNASH関連分子であるMAIP1の機能解析を進め、Maip1欠損マウスでは絶食誘発性脂肪肝が亢進することを見出した。さらに、MAIP1欠損ヒトiPS細胞由来肝細胞の作製を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R4年度は以下を実施し、おおむね順調に進展している。 1)ヒトiPS細胞やヒト肝臓・腸管オルガノイドにおける高効率両アリルゲノム編集技術開発: 昨年度確立したゲノム編集技術が、ヒトiPS細胞だけでなく、ヒトiPS細胞由来肝細胞をオルガノイド化した肝細胞においても適用できることを確認した。 2)ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導系やヒト肝臓オルガノイドを用いたTLL1および中胚葉細胞の肝発生における機能解析: C型肝炎ウイルス排除後の肝癌発症やNASH患患者の肝線維化進展へ関与が報告されているTLL1の胆管形成に寄与について解析した。TLL1欠損ヒトiPS細胞を用いた解析から、TLL1は肝星細胞から主に産生され、TGFβシグナルの活性化を介して胆管上皮細胞の成熟化に寄与していることを明らかにした。 2)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析: 腸管オルガノイドを単層培養化した場合や、特殊な基材で培養することで腸管機能が上昇することを見出したので、本過程に関与する培養条件の検討とRNAseq解析、および化合物を用いた阻害実験を行った。 3) NASH関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子MAIP1の機能解析: 我々が同定したNASH関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子であるMAIP1の機能を培養細胞、および欠損マウスを用いて解析した。その結果、細胞レベルでの解析で、MAIP1をノックダウンするとミトコンドリア機能の低下および脂質蓄積の亢進が誘導されることを明らかとした。Maip1コンベンショナル欠損マウスにおいては、絶食誘発性脂肪肝が亢進することを見出した。さらに、MAIP1欠損ヒトiPS細胞を樹立し、肝細胞への分化誘導、およびオルガノイド化を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
1)ヒトiPS細胞やヒト肝臓・腸管オルガノイドにおける高効率両アリルゲノム編集技術開発: 本研究全般に使用する欠損細胞を樹立する。適宜修正が必要であれば、修正し、本研究の迅速な実施につなげる。 2)ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導系やヒト肝臓オルガノイドを用いたTLL1および中胚葉細胞の肝発生における機能解析: TLL1による胆管分化促進効果のより詳細な機能解析を目的に、ヒトiPS細胞を胆管分化させた細胞群におけるsingle cell RNAseq解析を実施し、解析を進める。 3)ヒトiPS細胞から腸管上皮細胞への分化誘導系やヒト腸管オルガノイドを用いた腸管上皮細胞分化に関わる遺伝子群の機能解析: 引き続き、単層化や特殊な基材で培養することで、ヒト腸管オルガノイドにおける腸管機能が向上するメカニズムを解析し、優れたin vitro薬物評価系の開発につなげる。 4) NASH関連マイクロRNA miR-27bの標的遺伝子MAIP1の機能解析: Maip1欠損マウスで見られた脂肪肝亢進の原因が、肝細胞におけるMaip1欠損によるものかどうかについて確認するため、Maip1欠損マウスに対し8型アデノ随伴ウイルス(AAV8)ベクターを用いて肝臓特異的にMaip1を発現させることにより詳細に検討する。さらに、肝臓特異的にMaip1を欠損させたマウスを新たに作出し、検討を進める。また、MAIP1欠損ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドを用いて、ヒト肝細胞でのMAIP1欠損の影響を解析する。
|
Causes of Carryover |
初年度に新型コロナウイルス感染症の影響により、iPS細胞を用いた実験を行うにあたって必須の海外メーカーから調達する実験試薬の調達に大幅な遅延が生じたため、iPS細胞を用いた一部の実験に遅延が生じた。本実験試薬は、R4年3月から4月にかけて入手できたため、遅延した研究についてはR4年度中に実施したが、一部はR5年度にずれ込んだ。なお、一部の研究については研究が遅延したが、本研究全体を考えると研究は計画通りに実施できたため、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展しているとした。
|
Research Products
(25 results)