2021 Fiscal Year Research-status Report
DNA1本鎖損傷により誘導される染色体構造異常発生機構の解明
Project/Area Number |
21K18314
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中田 慎一郎 大阪大学, 高等共創研究院, 教授 (70548528)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2025-03-31
|
Keywords | 染色体構造異常 / DNA1本鎖切断 / CRISPR/Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
染色体構造異常は悪性腫瘍で多く認められる。染色体構造異常の種類は様々であるが、異なる2つの染色体が融合する染色体転座や染色体上で大きな領域が欠失してヘテロ接合性の喪失に至ることがある。環境変異原が原因となるDNA損傷の観点では、染色体構造異常の原因はDNA2本鎖切断(DSB)だと考えられる。しかし、DSBは1細胞あたり1日に10個程度しか発生せず、核内において物理的に近い位置で同時にDSBが存在することはほとんどないと予想される。一方、DNA1本鎖切断(SSB)はDSBの1000~10000倍の頻度で発生する。最近、我々は、2つのSSBからlarge deletion(局所的ヘテロ接合性の消失)が発生すること実証した。 SSBの発生にはCRISPR/Cas9システムを改変し、Cas9変異体ニッカーゼを用いた。細胞はリンパ芽球TK6由来のTK6261細胞を用いた。Cas9変異体ニッカーゼmRNAとガイドRNAをエレクトロポレーションによりTK6261細胞に導入した。1つの染色体上にSSBを複数発生させた後に、ゲノムDNAを抽出し、long PCRを実施、当該染色体内のlong deletionを検出した。バルク状態においてlong deletionを検出した。さらに、シングルセルソーティングにより得られた多数のシングルセル由来クローンにおいて実験を実施し、数10%に及ぶクローンにおいてlong deletionが発生することを示す実験結果が得られた。これらの実験結果より、複数のSSBを特定の位置関係で発生させることにより、局所的なlarge deletionが高頻度に発生することが実証された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度中に、基本的な実験手法を確立し、実際にSSBにより染色体構造異常が高頻度に発生することを実証した。本実験の遂行においては、様々な材料を用いることが可能(たとえば、Cas9ニッカーゼとしてD10Aを用いるか、H840Aを用いるか、Cas9はタンパクで用いるかmRNAとして細胞に導入するかなど)であり、それぞれの利点、欠点、また、用いる材料により発生するDNA損傷およびその結果が異なることが予想される。当該年度においては,材料の違いによる実験遂行上の問題点などを洗い出し、また、欠点を補うための改良等を実施した。以上の成果により、次年度以降の研究遂行を円滑に進めるための成果が得られており、研究は概ね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続きSSBによりlong deletionが発生する際のDNA損傷の特徴を解明するための実験を実施する。染色体構造とSSBの位置には、多様なパターンが存在するが、その多くのパターンを網羅するべく様々な実験条件を設定し、long deletion頻度を測定する。また、long deletionを発生させる条件がある程度決定された時点より、long deletionの抑制もしくは促進に係わる遺伝子を同定するため、DNA損傷応答・修復に係わる遺伝子をノックアウトした細胞あるいはノックダウンした細胞におけるlong deletion発生頻度を検証する。
|
Causes of Carryover |
本年度は、本研究課題開始前に樹立した細胞や既存のCas9ニッカーゼ、ガイドRNAを有効活用して研究を実施したため、想定していたよりも少額の物品費しか支出しなかったため。また、実験補助者の採用に至らず、人件費の支出を行わなかったため。翌年度には、多くの人工合成ガイドRNA,Cas9発現ベクター・RNA・タンパクを用いた実験を実施する予定としている。また、実験補助者を採用し、研究を効率的に推進していく予定である。
|
Research Products
(2 results)