2021 Fiscal Year Research-status Report
The process and mechanism of the growth of Taiwanese and Hong Kong Cantonese as new written languages
Project/Area Number |
21K18357
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉川 雅之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30313159)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | 書記言語論 / ダイグロシア / 現代文学 / 文体 / 粤語(広東語) / 台湾語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は専ら香港粤語(即ち香港の広東語)が書記言語化を果たしたプロセスとメカニズムを解明するために、以下の研究活動を行った。 1.電子化した文字データの作成 1980年代の作品については図書4点、1990年代の作品については図書4点、2000年代の作品については図書3点の本文を電子化した。2010年代の作品については図書3点の本文を電子化する作業を進め、一部分の章節について文字データ化を完了した。 2.文学作品データベースの拡充 粤語で記された文学作品についての書誌情報を記したデータベースは本科研研究期間開始以前に作成しており、その一部分は過去に論文2点として公表している。2019年以降に出版された新しい作品を収集し、データベースに加えることで、データベースの拡充を行った。 3.分析と考察 電子化した文字データを利用して、文字と語彙の出現頻度の分析を行い、通時的変化について考察を進めた。 4.研究成果 『世界の公用語事典』の「広東語」と「中国語」の項目を執筆し、現代のラテン文字表記法各1種類について解説を行った。その他には、粤語の「口偏の付加」に関する論文1篇が学術誌に掲載された。粤語は歴史的に、既存の漢字の左側に口偏と思しき字体を付加した新造字を多用してきた。この慣習は19世紀前期までにある程度生産的に機能していたと考えられるが、その生産性は現代に至るまで衰えていない。現代香港では口偏と思しき字体を付加した新造字が、粤語に特有な語を表すものとして様々な媒体で出現している。この「口偏の付加」が歴史的にどの様な機能を有してきたを解明する研究の一環として、19世紀中期の一文献について考察を行い、音声・音韻についての規則を導くことに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1980年代から2010年代までに刊行された、香港粤語で記された文学作品群から分析対象として最適と判断した作品を選出し、電子化した文字データを概ね作成することができた。この文字データは文字表記およびそこに反映した音声言語の特徴を考察するための基盤となる。 一次資料の収集についても、COVID-19にともなう渡航制限という逆境が存在したが、文学作品の新刊書の収集はある程度実現できた。 通時的視点からの考察も進め、既存の漢字の左側に口偏と思しき字体を付加するという現象が、なぜ現代でも粤語の書記言語化に於いて生産的に行われているかという課題を解明する端緒を開くことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2010年代の作品(図書3点)については、2021年度中に本文全体の文字データ化を完了させるまでには至らなかったので、2022年度の早い時期に完了させる。完了し次第、香港粤語文学作品の各階層についての分析、およびその通時的変化についての論考を執筆する。その後、台湾ビン南語(狭義の台湾語)の文学作品を対象とした文字データ化に着手する。
|
-
-
[Book] 世界の公用語事典2022
Author(s)
庄司博史(編)、吉川雅之など(著)
Total Pages
430
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30694-9