2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K18393
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 大和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (70782019)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 土壌 / プラントオパール / 植生変化 / 石筍 / トゥファ / 縄文時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、土壌プラントオパール分析による植生変動解明のため、東北地方の鍾乳洞地域と周辺の土壌調査をおこなった。各県での調査の結果、福島県のあぶくま洞や入水鍾乳洞に近い仙台平カルストにおいて、厚く堆積した黒ボク土を確認した。表層から深さ約1メートルの土壌をハンドオーガーによりサンプリングし、5センチメートル毎に分取、処理し、プレパラートへの封入と検鏡までおこなった。結果、黒ボク土層には、人為的な植生改変を示す草本起源のプラントオパールが豊富に含まれていることが確認され、現在土壌有機物の放射性炭素年代決定の準備をおこなっている。 また、鹿児島県徳之島のトゥファ試料から、プラントオパール抽出の試みをおこなった。トゥファは解放環境で形成される河川成の炭酸塩岩であり、通常、年間数ミリメートルの成長速度で堆積し、内部に明瞭な年成長線が刻まれる。これまでに、同島のトゥファから少量のプラントオパールが検出されており、試料量を増やすことで、年単位の植生変動記録が復元される可能性を示唆できた。同島のトゥファより抽出されるプラントオパールの供給源植物種の同定のため、南西諸島特有の自生植物や栽培植物の組織採取と灰化処理による、プラントオパール標本の蓄積も併せておこなっている。 上記の古植生研究に加え、人為的な植生改変活動のバックグラウンドとなった古気候変動の研究もおこなった。本年は、岐阜県大滝鍾乳洞から採取された石筍分析による成果を、国際誌Chemical Geologyにオープンアクセス論文として掲載した。本論では、石筍の炭酸凝集同位体測定を行い、最終氷期から、温暖な気候の縄文時代への温暖化過程を定量的な温度変化カーブとして復元している。また、人類活動に大きな影響を与える季節的な降水変動パターンの変化にも言及している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年までの調査では、人為的植生改変の強い証拠となる、黒ボク土層の発見に至らなかったが、本年は福島県のカルストで研究が進展した。また、昨年おこなった徳之島での土壌調査の難しさから、本年は方針転換を行い、炭酸塩堆積物であるトゥファから直接プラントオパールを抽出できた。研究計画当初の予定にはない高時間解像度の植生復元の可能性を示し、新たな情報媒体として今後の発展が期待できる。 以上より、研究初年度の進捗の遅れを取り戻しつつあると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
仙台平カルストの土壌から抽出、検鏡をおこなったプラントオパールの植物群集変化記録に、土壌有機物の放射性炭素年代データを加え、絶対年代上での植生変動史解明をおこなう。 国内各地域のカルストにおける土壌調査を引き続き行い、過去の草原植生を示す証拠となる黒ボク土を発見次第、仙台平カルストと同様のプラントオパール分析を順次行い、近隣の石筍同位体データと合わせて、過去の人為的植生改変の歴史を解明する予定である。 徳之島のトゥファからプラントオパールを抽出する試みについては、処理するトゥファの試料量を増やし、検鏡するプラントオパール数を増やすことで、より定量的な植生変動史の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画に比べ、研究に適した土壌試料の発見が少なく、調査費用、分析費用ともに使用額が低くとどまっている。本年度は論文の公表作業に時間を割いたことも、次年度使用額が生じた一因である。 次年度には、本年までに蓄積した土壌やトゥファ資料の分析を多くおこなう予定であり、また、成果の公表作業も並行しておこなうため、研究費の使用額が増大することが見込まれる。
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Research Products
(2 results)