2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K18414
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
今井 猛嘉 法政大学, 法務研究科, 教授 (50203295)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | AI / 因果関係 / ベイズ統計 / アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
人工知能(AI)と刑法理論の関係につき、研究を開始した。従来の刑法理論は、倫理的存在としての人を想定し、人が、法益侵害という違法結果につき、自己の行為と因果関係を持って生じるという事態を認識又は予想した上で行為に出て、これが実現した場合に、故意犯が成立すると解してきた。それは、法益侵害の発生という犯罪事実の認識を、当該侵害を回避するべく動機形成に利用しなかった点を倫理的に非難するためである。このプロトタイプは、AIによる法益侵害結果との関係では、直接には適用できない。そこで、刑罰ないし刑法の存在意義を再検討した。これを、同種犯罪の再犯予防ないし抑止に求めるならば、ある主体が、倫理的に不当な決意をしたか否かは問題とはならず、AIとの関係では、AIの作動を制御したアルゴリズムを改変することで、同種の法益侵害結果を回避することが、刑事制裁に相当する法的制裁になることが判明した。この理解を検証するために、アルゴリズムによる計算結果と法益侵害との間の因果関係の認定法の検証を開始した。具体的には、ベイズ統計学の手法を用いて、東名高速道路上で生じた、自動運転車が関与した死傷事故とその裁判例を分析した。その結果、当該事案の被告人には、過失運転致死罪の因果関係が否定される余地があるが、従来の学説は、この点を考慮していないことが判明した。この分析手法は、AIが関与した他の法益侵害結果事例においても、有益であると思われることから、以後の研究においても活用すべく、検討作業を準備しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東名高速道路での自動運転の事案を、ベイズ統計学的分析を加え、既存の理解を超える知見の開発に目処がついた。
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Strategy for Future Research Activity |
AIのアルゴリズムを外的に制御することを、人に対する刑罰と比較し、抑止刑の観点から、共通点を探る。アルゴリズムの改変により、人の法的利益に対する侵害を抑止可能であれば、これを刑事制裁と呼べるかが、次に問題となる。その検討に際しては、アルゴリズムの改変が、AIの同意を得ずになされている点の評価が問題となる。AIには、人と同様の同意能力はないことを重視すると、AIには、人に係る刑罰体系を適用できず、AIに固有の別体系を構想する必要がある。その検討も開始したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の中、研究のために予定した海外出張(海外研究者との意見交換、資料収集)ができなくなった。代替策として、オンラインでの意見交換を行ったが、当初、予定していた資金の支出には至らなかったため、次年度使用額が発生した。今年度も、海外出張には困難が予想されるため、海外の最新文献(英語、ドイツ語、フランス語)を入手して比較検討し、オンラインで海外研究者との意見交換を引き続き行うことにより、課題に係る国際状況を踏まえた検討を進める予定である。
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Research Products
(1 results)