2021 Fiscal Year Research-status Report
Exploration of Policy Evaluation Methods based on "Nudges" combined with Large Scale Database in Newly Emerging Economies
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21K18433
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島村 靖治 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50541637)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | ナッジ / 大規模データ / 政策評価 / 医療保険制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、行動経済学の分野において「ナッジ(少しのきっかけを与えることで行動の変化を促す手法)」が注目を集めている。本研究では、新興国において人々の健康に関連した幾つかのナッジを活用することで、政策介入によるミクロレベルでの人々の行動変容を検証すると共に、その社会的・経済的効果を推計し、更には全国規模の家計調査データや医療データベースなどの大規模データと結合することでマクロレベルでの新たな政策評価手法の確立を目指すものである。 そして、具体的な事例として新興国の筆頭であるベトナムとインドネシアの医療保険制度をとりあげ、その政策評価、主に財政面での持続可能性の検証を行うことが当初の計画であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の全世界的な蔓延により、これまでのところ新たなナッジの活用とその行動変容を検証するための現地調査が実施することができていない。 他方、ベトナムの医療保険制度に関連して、ベトナム中部のトゥア・ティエン・フエ省において、新型コロナウィルス感染症の蔓延の前後の人々の医療施設の訪問と医療サービスの利用に関するデータを入手することができた。このデータはトゥア・ティエン・フエ省のすべての公的医療施設から集められた大規模な医療データベースであり、このデータを用いて新型コロナウィルス感染症の医療サービスの利用への影響について検証を行い、その結果を国内学会で発表している。 加えて、新たなナッジ活用の代替案として、既存データを用いた政策効果の分析も実施した。具体的には、ザンビア農村部における深井戸建設の人々の健康への影響、なかでも安全な水の提供による下痢症の減少効果を推計し、その減少効果をランセット誌に発表されている「世界の疾病負荷研究」による障害調整生存年数と関連付けて、深井戸建設によりもたらされた経済的価値を推計し、その分析結果をまとめた論文を査読付き国際学術誌に公刊している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究では、ベトナムとインドネシアにおいて人々の健康に関連した幾つかのナッジを実施し、その政策介入によるミクロレベルでの人々の行動変容を検証する計画であった。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の全世界的な蔓延により、日本人研究者が現地調査に同行できないだけでなく、現地のカウンターパートスタッフによる活動も大きく制限され、これまでのところ新たなナッジを実施することができない状況が続いている。そのため、研究の進捗には大きな遅延が生じている。 他方、これまでにベトナム中部の村で実施してきた化学肥料の使用量を抑制するための有機肥料の普及に関する研究では、村の家計の全数調査に基づき男女別に村に存在するすべての社会ネットワークを把握し、そのなかで有機肥料に関する情報がどのように伝搬し、その利用を促進するかについての分析を行い、査読付きの国際学術誌に投稿している。 また、これまでに築いてきた現地カウンターパートとの信頼関係により、通常はアクセスの難しい現地の医療データが利用できる環境が整っており、なかでもベトナム中部のトゥア・ティエン・フエ省からは大規模な医療データベースの提供を受け、国際共同研究を進めている。加えて、新興国の事例ではないが、これまでに現地調査を実施した貧困国の事例をとり上げ、世界的な医療データベースに基づいて推計しているランセット誌の「世界の疾病負荷研究」による障害調整生存年数を用いた政策シミュレーションを行うなど、大規模データベースを活用した政策評価手法の開発については新たな挑戦も行っている。 更に、他の既存データの活用も進めている。例えば、モロッコにおける地方道路整備の医療施設利用の促進効果、ミャンマーにおける都市配管給水の人々の健康改善効果などの検証を行い、ASEAN諸国のみならず多くの開発途上国にとって重要な政策的インプリケーションを引き出す取り組みを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き現地でのナッジ実施の可能性を模索する。まず、ベトナムにおいて食物の栄養価を高めるためのナッジを官学共同で実施する。具体的には、住民の身近に存在する地域未利用資源を利用した環境負荷の少ない農業技術の導入を図る。これまでに残飯と豚を利用した有機農法、防虫剤の使用を減少させる米の新品種の導入を行ってきたが、更に新しい取り組みとして、鶏にこれまでは廃棄していたキャッサバの根を発酵させた餌を与えることで鶏の食欲を増進させ鶏肉の栄養価の改善を図る技術の導入を試みる。こうした新しい農業技術の導入の結果として、自給自足による栄養改善効果と市場販売を通じた所得向上による住民の栄養状態の改善効果が期待でき、経済発展に伴って増加する肥満や高血圧といった非感染症疾患への対策となる。本研究では、農業技術に関するどのような情報介入がより効果的に技術の普及に役立つのかを検証する。 そして、インドネシアでは公的医療施設の医療サービスを補完する役割を担う医療ボランティアの活動に着目し、感染症(特にCOVID-19)などの予防行動を促進するためのナッジを実施する。例えば、所謂3密を避けるための情報介入が考えられるが、医療ボランティアは普段、無償で活動しており利他性が高いと考えられる。そのため「自分自身への感染を避けるために」という情報の提供の方法よりも「家族や村の人々への感染を避けるために」といった情報提供の方法がより効果的に彼らの行動変容に繋げることができると考えられる。なお、情報介入に加えて、報奨金による行動変容の検証も計画している。献血などの事例にみられるように報奨金が利他性に基づく人々の行動にネガティブな影響を与える可能性もある。 今後は、現地における新型コロナウィルス感染者数の推移を見守りつつ、ナッジ実施の時期を検討していく。また同時に、代替案としての既存データの活用も進める計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の全世界的な蔓延により、日本人研究者が現地調査に同行できないだけでなく、現地のカウンターパートスタッフによる活動も大きく制限され、これまでのところ新たなナッジを実施することができない状況が続いている。そのため、調査実施の準備のための海外渡航および調査実施のための予算が未使用のままとなっている。 しかし、ベトナムにおいては既にフエ農業大学とは複数年に渡る協力関係にあり、信頼関係の構築もできており、フィールド実験の準備も整っている。また、フエ医科薬科の協力により、通常では取得が難しい医療データベースへのアクセスが可能になっており、現地の疾病・疾患の傾向、発症頻度、現在の医療費を把握することができている。加えて、インドネシアではガジャマダ大学医療公衆衛生看護学部との研究協力体制ができており、新型コロナウィルス感染症の蔓延の状況が収まり次第、現地でのナッジを実施する計画である。
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Research Products
(2 results)