2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K18488
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
保坂 寛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50292892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小佐野 重利 東京大学, 相談支援研究開発センター, 特任教授 (70177210)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 視線計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3(2020)年の交付申請書(研究実施計画)に記載したとおりに、柏市の学童保育所に通う児童35人を被験者とし、読み聞かせに参加し、あるいは、個人的に読みたい本を手に取って読む様子を、児童が装着したメガネ型アイトラッカー(Tobii Pro Glasses 3)で、その眼球運動パターンを追跡して眼球運動(視線追跡)のデータを採って、児童個人の読書への関心傾向および内容認知度を探る研究課題を実施した。まず、同年6月~8月のあいだに計測実験手法や課題図書の選定等をいろいろと試すためパイロットランを実施した。課題図書には、文字と絵からなる絵本、伝記まんが、挿図入り児童書や学習まんが『日本の歴史』(集英社刊)を使った。今年度の目標として、特に、教育心理学や認知心理学、ひいては認知神経科学の分野で古典的な研究トピックスである、2つの読書法(reading mode)、黙読(silent reading)と音読(oral reading)の速度比較と両読書法における課題文の理解度(理解力)を探る実験をおこなった。同実験には、学童保育施設に通う児童のうち、2年生10人、4年生7人を被験者とした。学年の選定は、教育・認知心理学の先行研究において低学年(1、2年生)では音読での理解度の優位性が指摘され、また10歳以上からは、黙読が有意・効率的となると報告されているので、その研究報告の検証ができると予想したからである。アイトラッカーの計測データとその解析のうち、速度比較は、Tobii Pro ラボでTOI 興味範囲時間(Time of Interest)を設定し、同時にeye movements目盛に依拠して、マニュアルで確認し集計した。眼球運動は、黙読および音読の時の眼球運動を解析ソフトのフィルターを使って視覚化したgaze plotとheat mapのパターンから、差異を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、2021年度初めに、寄付金によるメガネ型アイトラッカー(Tobii Pro Glasses 3 Wearable 100Hz)および関連解析ソフト(Tobii Pro ラボ)の入手の実現と、同機器操作技術の習得と並行して、3か月間、パイロットランの実施ができた。その上で、試行錯誤の末、本年度の研究計画をたて、それに沿って計測実験と解析作業をおこなった。2022年3月26日にはその成果の一部をオンライン研究報告会「やはり、音読は黙読より時間がかかる―アイトラッカーによる眼球の生理的な運動追跡のエビデンスから―」として公開した。それは、「研究実績の概要」で述べた、2年生と4年生の黙読と音読の速度比較、および両読み方における課題文の理解度を探った報告である。その結論は以下のとおり。①音読が黙読より時間がかかるという確証が得られた。②音読時に注意資源が課題文に集中していた。③音読の後に黙読する方が、文字の音韻変換に慣れた結果として所要時間が短縮され、おそらく理解度も上がっている。④2年生では、音読と黙読のgaze plotのパターンに顕著な差異があり、黙読で音韻変換が十分にできていないと予測できる。一方、4年生では両者のパターンの差異が小さく、黙読でも音韻変換している児童が多い可能性もある。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究報告から、今後の課題として、黙読と音読での理解度をより正確に評価するには、眼球運動の計測後に、従来の教育・認知心理学的な実験と同じように、課題文に関する理解度テストをする必要がある。ただし、ストーリーに関する理解度を探るために、課題文に使った本のページ文章だけでなく、あらためて本全体もしくは章全体を黙読、音読させた上でのテストが有効であろう。 今年度は、課題文は紙媒体としたが、次年度は、紙媒体の課題文とデジタル媒体の課題文において、黙読と音読の速度比較および理解度に差異があらわれるかどうかを、gaze plotやheat map等の視覚化から調査する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により,児童を被験者とする計測実験に支障があった.大学および小学校学童保育施設での被験者数,実施回数に制限があり,人件費,施設使用料,交通費の支出が想定以下となった.この解決のため,R4年度は大学内に専用の研究室を賃借し,安全な実験環境を整える.
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