Project/Area Number |
21K18598
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大熊 哲 東京工業大学, 理学院, 教授 (50194105)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 超伝導渦糸 / 非平衡相転移 / 走査トンネル分光 / アモルファス膜 / ディピニング転移 / レオロジー / 臨界緩和 / 2次元粒子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
乱れたピン止めポテンシャル基板上に置かれた多粒子系の, 運動によって引き起こされる秩序化や無秩序化は, 新しい非平衡現象・レオロジーの観点から近年注目されている。本研究は, 多くのパラメタを制御でき, 理想的な2次元粒子系とみなせる超伝導渦糸系を用いて, 自然界に広く存在する非平衡現象や非平衡相転移を解明, 探索すると共に, レオロジーへ適用することを目指す。このために, まず相転移を検出する巨視的輸送現象測定と走査トンネル分光による渦糸の微視的配置観察を同時に実現できる装置の開発を行った。R3年度には装置の構築が進み, 4端子法による渦糸の輸送現象測定と運動状態を凍結した渦糸の配置像を観測することが可能となった。 装置開発と並行して, 我々がこれまで見出してきた非平衡ディピニング転移に関する知見を深める研究も進めた。これまでの実験では, 非平衡ディピニング転移の実験証拠となる臨界現象は渦糸フロー相でのみ見出され, 定常状態の速度(電圧)がゼロとなるピン止め相では臨界現象が観測されていなかった。本研究では, ピン止め相において, 直流駆動された渦糸の過渡応答を精密に測定することにより, 緩和時間の電流依存性がディピニング転移点で特徴的なべき乗の臨界発散をすることを初めて示した。さらに, 駆動電流を一定に保って渦糸密度を増加させた場合も, 渦糸密度を一定に保って駆動電流を増加させた場合と同様の非平衡ディピニング転移の臨界現象を観測した。一方, 渦糸格子のソフト化によってピン止め効果が増強される高磁場のピーク効果領域では, 渦糸密度の増加に伴うフロー相からピン止め相へのリピニング転移の臨界現象を初めて観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非平衡相転移を検出する巨視的輸送測定と走査トンネル分光による渦糸の微視的配置観察を同時に実現する極低温高磁場走査トンネル顕微鏡を開発した。今後も, 渦糸像の解像度を高め, 観測視野と渦糸個数をさらに増やすといった改善の必要はあるが, 駆動した渦糸の巨視的ダイナミクスと, 運動を凍結した渦糸配置の微視的なスナップショットをその場で取得することが可能となった。我々が知る限り他にはない実験システムであり, 今後の研究展開への見通しが得られた。 まず, はじめに着手した非平衡ディピニング転移の研究では, 渦糸フロー相だけでなくピン止め相においても相転移の臨界現象を初めて観測することに成功し, さらにこれまでの駆動力(電流)だけでなく, 渦糸密度(磁場)に対しても同じ臨界現象が見られることを示した。これらの結果は, 非平衡ディピニング転移の新たな普遍性を示したものであり, 重要な成果と考えている。これらの成果に加え, プラスチックディピニング転移の存在を渦糸の微視的配置観察により初めて確認し, この相転移の微視的配置からの基礎づけを与えた。 以上の理由により, 研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
渦糸の微視的配置の観察により, これまで理論でのみ予想されていた, ピン止め効果の増加に伴うエラスチックディピニング転移からプラスチックディピニング転移への移り変わりを実験的に検証する。さらに, この移り変わりに伴って, 相転移の臨界現象がどのように変化するかを明らかにする。また, プラスチックディピニング転移の場合, ピン止め相が結晶的かアモルファス的であるかで, 臨界現象にどのような違いが出るかを明らかにする。 ところで, 本研究で扱うアモルファス膜試料のようにピン止め中心が点状の場合には, それぞれのピン止めサイトに渦糸が個々にピン止めされるか, あるいは集団的にピン止めされることによって, ピニング-ディピニング転移が起こる。これに対し, 渦糸密度が大きいなどの理由により, ピン止めされている渦糸が小さいクラスター構造をとる場合には, 渦糸の流れがこのクラスター壁にせき止められるクロッギング(目詰まり)現象が起こることが理論的に予想されている。計算機シミュレーションによると, 駆動力を減らしていくとフロー状態からクロッギング状態への非平衡相転移が起こり, しかもこれはプラスチックディピニング転移とよく似た臨界現象を示すことが予想されている。そこで今後(R4年度)の研究では, 走査トンネル分光装置の改良と共に, 非平衡クロッギング転移の存在を検証する実験を進める。このために, 渦糸の微視的配置を実空間観察して, ピン止めサイトの構造や密度を明らかにした上で, ディピニングとクロッギングが起こる実験条件を求める。その後, 様々な駆動力(電流)に対して速度(電圧)の緩和現象を測定し, ディピニング転移とクロッギング転移の臨界現象を求める。
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Causes of Carryover |
当初計画では, 今年度(R3年度)は極低温高磁場走査トンネル顕微鏡の開発に多くの時間を割く予定であったが, 並行して進めた非平衡ディピニング転移の研究に大きな進展が見られたため, こちらに注力した。このため, 極低温高磁場走査トンネル顕微鏡の運転で予定していた大量の液体ヘリウム, 液体窒素代の支出が次年度(R4年度)に回ることになった。また, 研究打合せや情報収集で予定していた旅費や会議参加のための支出も新型コロナウイルス感染症の影響で次年度(R4年度)に持ち越された。
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