2021 Fiscal Year Research-status Report
太陽系形成初期の小天体における放射性核種起源のガンマ線によるアミノ酸形成の検証
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21K18648
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
癸生川 陽子 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70725374)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 太陽系小天体 / 有機物進化 / 隕石 / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,太陽系形成初期において,小天体内部で起こった水質変質過程でのアミノ酸などの有機物形成に対するガンマ線の寄与を明らかにすることである。始原的な隕石には,アミノ酸などの有機物を含むものがあり,このような地球外有機物が原始地球において,生命の原材料となった可能性がある。このような隕石の母天体は集積時に氷を含んでおり,その形成初期に放射性核種(Al-26等)の崩壊による熱で氷が溶け,水質変質が起こったことが知られている。このような液体の水を生じる過程は,有機物の形成・進化にも寄与したと考えられている。しかし,これまでこのような小天体における反応の研究においては,熱の影響のみが考慮されており,放射性核種から放出されるガンマ線などの放射線の効果はまったく考慮されてこなかった。本研究では,全く新しい観点として放射性核種の崩壊により放出されるガンマ線が直接分子に作用し化学反応を促進するという仮定を立て,ガンマ線によるアミノ酸の形成を実験により検証する。 ホルムアルデヒドとアンモニアを含む水溶液を,ガラス管に真空封入し, Co-60ガンマ線源を用いて照射を行った。ガンマ線の線量率及び総照射線量の影響を評価するために,様々な線量率・照射時間での実験を行い,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実験生成物中のアミノ酸の定量分析を行った。その結果,ガンマ線の線量率によらず,総照射線量に比例してアラニンなどのアミノ酸が生成することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通りおよそ予定通り成果が得られており,投稿論文の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,アミノ酸以外の生成物の分析や比較のための加熱実験を行う予定である。また,赤外分光法を用い,アミノ酸前駆物質の分子構造を調べる。 以上により,これまで未知であった,小天体の水質変質の熱源となったAl-26等の短寿命放射性核種の崩壊による放射線(特にガンマ線)そのものの,有機物の形成・進化への直接的な役割を明らかにする。本研究は,これまで乖離していた「惑星科学における物質化学」と「生命の起源を目指す前生物化学」との融合ともなるものである。特に,(1)太陽系形成初期の物質進化過程の一環としての小天体での水質変質過程における有機物の形成という惑星科学的意義,(2)地球生命の原材料となった可能性のある地球外有機物の化学進化過程の一環としての生命科学的意義,において革新的な研究結果が期待できる。
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