2022 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌実験室進化を通じた生物の元素利用に対する進化的可塑性の検討
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21K18662
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川上 了史 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (60566800)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 実験室進化 / 大腸菌 / 金属イオン / ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
生命の利用する元素を進化を通じて変化させられる可能性について、大腸菌をモデル生物として検討してきた。実験的にはLi, W, Ru, Eu, Ndなどを添加して、継代培養を行ってきた。これらの集団の中に、添加した元素がなければ生育できない金属イオン要求株が生じている可能性を本年度も追及した。しかし、いずれの系列でも明瞭な要求性を示す株の取得は達成できなかった。一方、昨年度の成果から、Euを添加して培養した集団から、Eu存在下で細胞膜が安定化している可能性がある株が生じていることが示唆されていたことから、こちらの株についての単離を検討した。しかし、その後の解析から、Eu存在下で膜が安定化する効果もないわけではないが、そもそもEuがない環境でもこの培養集団は細胞膜が強化されるような進化を遂げていることが明らかになった。そのため、細胞膜強化にEuの関与は大きいわけではない可能性が示唆された。一方で、Euを添加せず進化させた集団では、このような細胞膜の強化は観察されていないことから、添加したEuが間接的に細胞膜の安定性に影響を及ぼしていることが示唆された。 また、本研究がうまくいかなった場合に用意していたバックアップの計画についても開始した。具体的には、すでにRuを添加して培養した集団から得られているカタラーゼ欠損株LossKatの誕生系譜を明らかにするためのゲノム解析である。並行して進めている新学術領域の公募研究(22H04821)では主にその株の生化学的な性質に着目をして分析を進めているが、本研究では、その進化プロセスにフォーカスを当てた研究を中心にすすめている。その結果、Ruの培養系列にはFe輸送に関わる遺伝子群に変異が蓄積していることを明らかにできた。さらに、本年度は新たに進化実験に追加したOsの培養系列での実験を行い、進化に対してRuと同様の影響が生じることを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
株の単離という観点からは狙ったような株が取れていないため、遅れている部分はあるが、そもそも高難度であったことは計画時に明らかであった。そこで、本年度はあらかじめ計画していたバックアップの計画を動かし始め、こちらは予想を超えて順調に成果が得られた。したがって、全体としては順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
大腸菌の進化的可塑性を検証するために、当初は添加元素の要求株といったわかりやすい表現型の取得を目標とした研究を計画してきた。しかし、現在までのところ、このような株が得られていないことを考えると、直感的にわかりやすい指標だけに頼るのではなく、他の方法も取り入れる必要がある。これまでにRuやOsを用いた培養実験で得られた大腸菌集団のゲノム変異蓄積過程の解析から、元素ごとに進化に方向性が見出せる可能性が明らかになったことから、ゲノム変異を指標とする進化の評価を検討できるようになった。一方で、どのような遺伝子群に変異が蓄積するのかを推定することは、現段階ではインフォマティクスだけで推定がうまくできておらず、株の表現型から推定する手法を採用している。実際に、Ru存在下で培養した大腸菌群にFe輸送に関わる遺伝子に変異が多く蓄積されたという解析も、LossKatの研究から明らかにできた。そこで、Euを用いた培養系列から得られた細胞膜が強化された大腸菌株についても、一部生化学的な特徴の解析を行い、どのような遺伝子群に影響が出ているのかを推定し、Euに特徴的な進化の傾向が見出せる可能性を検討する。これら一連の成果から、元素ごとの進化のバイアスを明らかにできれば、生物進化の元素による誘導が実現できるようになる可能性がある。
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Causes of Carryover |
大腸菌のゲノム解析を行うために、複数のサンプルを計画していたが、研究の経過に伴い、効率的な解析が実現できた。その結果、必要なサンプル数が減少したことで次年度使用額が生じた。しかし、それに伴って明らかになったことが多く、さらに研究を深めるため次年度には計画していた以上に発現量解析の研究を増やす必要が出ることから、そちらに充てる予定である。
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