2021 Fiscal Year Research-status Report
がん転移に関わる細胞分化機構解明を目的とした細胞-細胞間引張強度測定技術の創成
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21K18672
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
菊池 将一 静岡大学, 工学部, 准教授 (80581579)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大多 哲史 静岡大学, 工学部, 助教 (30774749)
倉科 佑太 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40801535)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞接着 / 磁性ナノ粒子 / 引張試験 / MEMS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,がん転移に関わる細胞分化機構を解明するために,細胞-細胞間引張強度の測定スキームの確立を目的としている.細胞の転移のしやすさは細胞接着力によって変化したり,接着強度をもとにがん細胞が転移細胞か否かを見分けることができる.したがって,工学的に細胞-細胞間の接着強度を定量化できれば,がん細胞転移や細胞死に関する新たな医学的知見を得ることが可能となる.しかし,細胞-細胞間の接着強度を測定する手法は存在しない.これは,試験体である細胞-細胞群をチャッキング(試験台に固定)できないという材料強度学的課題に起因している.そこで本研究では,材料強度学,マイクロデバイス,磁気工学の技術を融合することにより,“磁石で誘導した接着細胞を固定して引っ張る”という新発想を具現化し,接着細胞-細胞間引張強度の計測手法を創成することとした. 具体的な実施項目は,(1)培養細胞に磁性ナノ粒子を添加,(2)磁性ナノ粒子を取り込んだ細胞を回収,(3)磁気ラベル細胞をMEMS基板に播種,(4)接着細胞群の引張試験の実施,である.細胞の接着強度を計測するためには,細胞を計測用基板の先端へ誘導したものを2つ用意し,それらを繋げて基板先端の細胞同士を接着させる必要がある.そのため,細胞を誘導するために細胞内に磁性ナノ粒子を取り込ませ,磁石から生じる磁場により操作する手法の確立,さらには単一の細胞誘導を実現可能な基板形状の最適化に取り組む.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも記した通り,本研究の具体的な実施項目は,(1)培養細胞に磁性ナノ粒子を添加,(2)磁性ナノ粒子を取り込んだ細胞を回収,(3)磁気ラベル細胞をMEMS基板に播種,(4)接着細胞群の引張試験の実施,である.現在は(1)~(3)事項に取り組んでいる段階にあるため,本課題は「おおむね順調に進展している」といえる. 培養細胞に磁性ナノ粒子を添加する事項については,細胞の粒子取り込みに成功した.現在は粒子添加量の最適化を行っている.これは,細胞に添加する磁性ナノ粒子が過剰になると細胞表面で磁性ナノ粒子が凝集し,細胞誘導の際に立体障害を引き起こすためである.このような操作によって適量の磁性ナノ粒子を取り込んだ細胞については,磁力を用いた回収に成功している. 次に,回収した磁気ラベル細胞をシリコン基板上に播種し,細胞誘導を行った.その際,システム実体顕微鏡によりシリコン基板上部から細胞の挙動をその場観察することにより,磁石の位置制御によって少数の磁気ラベル細胞を誘導できることを明らかにした.さらに本研究では,実験上の取り回し易さから,光を透過する透明なポリマー(Off Stoichiometric Thiol Enes: OSTE)製の基板も導入した.OSTE基板の形状パラメータ(基盤先端の突起の幅や深さ)を系統的に変化させ,少数細胞誘導のための基板形状最適化に着手した.また,細胞に添加する磁性ナノ粒子量とも関連付けて,少数細胞誘導条件について総合的な検討を加えた.
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Strategy for Future Research Activity |
細胞の接着強度を計測するためには,単一の細胞を計測用基板の先端へ誘導したものを2つ用意し,それらを繋げて基板先端の細胞同士を接着させる必要がある.そのため,細胞内に磁性ナノ粒子を取り込ませ,磁石から生じる磁場により少数細胞を操作する手法の確立のみならず,単一の細胞誘導を実現可能な基板形状の最適化が必要である.今後は,本研究で明らかにした少数細胞誘導に適した基板形状パラメータをもとに,単一の細胞誘導が可能な基板形状の最適化を行い,細胞間接着強度計測へと展開する. さらに,細胞間接着強度は極めて小さく,一般的な引張強度計測手法では計測できない点を考慮し,計測用基板の側面に板ばねを具備した引張試験システムを開発する.引張試験を実施した際のばねの変形を計測することにより細胞接着強度を材料力学的観点から算出し,細胞接着強度を定量評価可能なシステムを構築する. また別の観点からは,単一細胞のマニピュレーションは細胞機能の解明を可能とするツールとして注目され,世界中で研究が進められている分野でもある.そのため,本研究で注目しているマイクロ構造を有する基板と,細胞に取り込ませた磁性ナノ粒子と磁場による磁力を併用した単一細胞誘導技術は,細胞間接着強度評価のみならず細胞マニピュレーション技術全般の向上に寄与すると期待される.当該分野の発展のためにも,単一細胞を自在に誘導できる技術を確立する.
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