2021 Fiscal Year Research-status Report
水分子ダイナミクス測定と分子計算によるタンパク質劣化と最適保護物質特性の予測
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21K18684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白樫 了 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (80292754)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | タンパク質 / 水分子ダイナミクス / 回転緩和時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質分子と水分子の水素結合は,タンパク質の保存・安定性を大きく左右する.とくにタンパク質分子表面の水分子のダイナミクスは,タンパク質の劣化を支配することが知られている.本研究では,水分子のダイナミクス(具体的には回転緩和時間)を支配する現象を明らかにすることで,回転緩和時間を制御しうる保護物質の物性を調べることを目指している. 当該年度は,上記の目的の最初の段階で重要となる,タンパク質水溶液中の水分子のダイナミクスを調べるための分子動力学計算と解析手法を開発した.リゾチームをモデルタンパク質として,種々の濃度の水溶液中のタンパク質周囲の水分子の回転運動と移動を,分子動力学計算をもちいて計算した.即ち,全ての水分子について双極子モーメントの回転自己相関関数を計算することで回転緩和時間を算出した.また,各水分子について,タンパク質表面からの距離の時間変化より,各水分子の表面からの距離の分布関数を算出した. 解析結果より一つの水分子は複数の回転緩和時間を有する場合があることや,回転緩和時間が,その水分子のタンパク質表面からの距離の分布関数に依存していることがわかった.これら1つの水分子の回転緩和時間と距離の分布関数について,系全体の統計をとることで,タンパク質表面からの距離に対する回転緩和時間の二次元確率分布を算出することができた. さらに,これらの計算系の妥当性を評価するために,種々の濃度のリゾチーム水溶液の誘電分光より水溶液中の水分子の回転緩和時間を測定した.測定値と分子動力学の計算結果から導出した緩和時間は,良好な一致がみられ開発した計算系と解析手法は,一定の妥当性があることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の基盤となる分子動力学計算の計算系の確立と,一水分子の挙動の確率的解析と系全体について統計処理をすることで,水和殻を仮定することなく,タンパク質表面からの距離が水分子のダイナミクスに与える影響を定量的に調べる解析手法が確立したため.また,今年度までの成果は,既に2回の学会発表(1回発表済み,1回はaccept済み)を行い,成果をまとめて英文Journalに投稿済みで査読者と議論を交わしている状況にあるため,内容について一定程度,認知を得ていると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質分子の表面からの距離と水分子のダイナミクス(回転緩和時間)の関係を解析することができたので,次の段階として水分子の回転緩和時間を決定している現象を調べ,該当する現象と溶質分子(ここではタンパク質)の物性の関係を調べることで,水分子運動の制御性を解明する.
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Causes of Carryover |
該当予定購入研究備品の一部別経費にて対応可能であったため。
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Research Products
(2 results)