2022 Fiscal Year Annual Research Report
水分子ダイナミクス測定と分子計算によるタンパク質劣化と最適保護物質特性の予測
Project/Area Number |
21K18684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白樫 了 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (80292754)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 水分子ダイナミクス / タンパク質 / 糖類 / 回転緩和時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質分子と水分子の水素結合は,タンパク質の保存・安定性を大きく左右する.特にタンパク質分子表面の水分子のダイナミクスは,タンパク質の劣化を支配することが知られている.本研究では,水分子のダイナミクス(具体的には回転緩和時間)を支配する現象を明らかにすることで,回転緩和時間を制御しうる保護物質の物性を調べることを目指している. 当該年度は,前年度の解析手法を分子動力学による計算結果に適用して,個々の水分子の回転緩和時間を決める主要因について調べた.その結果,個々の水分子の回転緩和時間が極端に長くなる領域が溶質分子の表面数オームストロング内にあることがわかり,その範囲は実験で報告されている(第一)水和殻の範囲と一致した.さらに,水分子の回転緩和時間は,その水分子が水和殻内に滞留する時間と1対1の関係があることがわかった.この関係の機序を調べる為に,一つの水分子に作用する静電気力の回転緩和時間を調べたところ,水分子の回転緩和時間と一致することがわかった.左記の知見に基づき,定点の静電気力の回転緩和時間を調べ,水和殻内では極めて遅い溶質分子の回転緩和時間に,水和殻外では純水と一致したことから,回転緩和時間が長くなる水和殻内に水分子が滞留時間が水の回転緩和を決定する機序であることがわかった.また,糖水溶液の計算結果にこれらの解析手法を適用したところ,同じ関係が得られた.但し,糖水溶液では,タンパク質分子(リゾチーム)に比べて水和殻に入った水分子が滞留する時間は短いことから,水分子の回転緩和時間は,水溶液内の糖分子水和殻の体積分率で決まることがわかった.要するに,水の回転緩和時間は,1)水和殻内の電場の回転緩和時間,2)一つの溶質分子の水和殻内にある水分子の平均的滞留時間,3)水和殻の体積分率の3点を,溶質濃度や溶質の特性で制御すればよいことがわかった.
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Research Products
(6 results)