2021 Fiscal Year Research-status Report
金属ポルフィリン錯体への酸素分子の配位結合制御と酸素吸脱着デバイスへの展開
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21K18691
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
津島 将司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30323794)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 崇弘 大阪大学, 工学研究科, 講師 (90711630)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 分離濃縮 / 酸素富化 / 吸脱着制御 / 金属ポルフィリン錯体 / 物質輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,溶液中の金属ポルフィリン錯体への酸素分子の配位結合に着目し,省エネルギープロセスとしての酸素吸脱着を金属元素と電子供与性配位子の組み合わせにより制御し,酸素富化デバイスとして実証する.具体的な研究課題として,①ポルフィリンの中心金属と電子供与性を有する配位子の組み合わせによる配位吸着能の制御,②金属ポルフィリン錯体溶液を用いた酸素吸脱着デバイスの実証,を設定する.複雑なピケットフェンス構造ではなく,ポルフィリン錯体の中心金属の酸化性と配位子の電子供与性を制御することにより,酸素吸脱着デバイスを実現する.従来,高エネルギー消費とされてきた酸素の高濃度化について,生体材料からの着想を起点として,工学的に有用な酸素富化(分離,濃縮,貯蔵,供給)プロセスの確立に挑戦し,将来の再生可能エネルギー社会における酸素のエネルギーデバイスへの利用を先導する.本年度は,中心金属元素ならびに構造が異なる11種類の金属ポルフィリン錯体について,密閉容器内での気相(酸素または窒素)バブリング実験系を構築し,吸収分光計測にもとづいた酸素吸脱着能の評価を実施した.配位子濃度の影響,温度依存性,可逆性,に着目した実験を実施し,酸素吸脱着デバイスへの適用に向けた金属ポルフィリン錯体の探索と選定を行った.酸素吸脱着を誘起するためには適切な配位子濃度が存在し,金属ポルフィリン錯体に依存して酸素吸脱着挙動が著しく異なり,可逆性ならびに温度依存性に関する違いが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸素吸脱着材料としての金属ポルフィリン錯体の探索および開発のために,吸収分光計測を酸素吸脱着が進行する溶液内で実施できる実験系を構築した上で,金属ポルフィリン錯体の酸素吸脱着特性について,中心金属とポルフィリン構造および配位子濃度の影響,温度依存性ならびに可逆性についての検討を行った.金属ポルフィリン錯体の脱酸素化状態と酸素化状態は,分光光度計に光路長10 mmまたは1 mmの光ファイバープローブを接続し,紫外可視吸収スペクトルを測定することで評価した.酸素吸脱着実験においては,金属ポルフィリン錯体を含有する溶液に窒素または酸素をバブリング法により供給して行った.温度管理は温度調節器により行い,ラバーヒーターを用いて容器壁面より加熱を行った.中心金属元素として,コバルト(Co),バナジウム(V),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),鉄(Fe),ニッケル(Ni),銅(Cu),ルテニウム(Ru),に着目し,オクタエチルポルフィリン(OEP),テトラフェニルポルフィリン(TEP)などの構造を有する金属ポルフィリン錯体の酸素吸脱着特性を調べ,酸素吸脱着能が高い金属ポルフィリン錯体を選定した.その上で,溶液中の配位子濃度の影響について検討を行い,配位子濃度の増加により,酸素吸着変化率が増加して一定値に漸近する一方で,脱離変化率については,増加した後に減少に転じることを明らかにした.温度依存性については,温度上昇に伴う酸素脱離,ならびに温度低下に伴う酸素吸着が確認され,金属ポルフィリン錯体構造に依存した違いが明らかになった.可逆性については,繰り返し実験ならびに長時間実験を実施し,ポルフィリン構造に起因する不可逆過程の進行が示された.
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Strategy for Future Research Activity |
研究開発2年目においては,1年目に実施した金属ポルフィリン錯体の酸素吸脱着挙動に関する知見にもとづいて,金属ポルフィリン錯体を用いた酸素吸脱着デバイスの実証に関する研究を推進する.実験で対象とする金属ポルフィリン錯体および配位子については,1年目に実施した結果を踏まえて選定を行い,酸素化した金属ポルフィリン錯体に対して,電気化学反応を起点とした脱酸素化についての検討を行う.金属ポルフィリン錯体を含有する電解液について,サイクリックボルタンメトリー(CV)などの電気化学的手法により酸化還元電位を測定するための実験系を構築する.その際に,1年目に構築した光ファイバープローブを用いた紫外可視吸収スペクトル測定系と融合することで,電気化学測定とともに酸素吸脱着測定の実施を可能とする.その上で,金属ポルフィリン錯体の酸素化および脱炭素化が及ぼす影響について調べ,溶液中の溶存酸素濃度に対する依存性とあわせて,基礎的な検討を行う.酸素化した金属ポルフィリン錯体の電気化学反応特性については,酸素吸脱着デバイスでの適用のために,金属ポルフィリン錯体の濃度,電気化学反応場の温度、ならびに溶液中の酸素分圧依存性を考慮した検討を実施する.これにより,金属ポルフィリン錯体を用いた様々な物理的・化学的過程の組み合わせにより省エネルギーを実現する酸素富化プロセスの構築と実デバイスの実証のために基盤となる知見を獲得する.
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