2021 Fiscal Year Research-status Report
ちょうどいい知能:線虫群を規範とする低情報処理資源ロボット群の行動アルゴリズム
Project/Area Number |
21K18697
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
倉林 大輔 東京工業大学, 工学院, 教授 (00334508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 佑哉 呉工業高等専門学校, 電気情報工学分野, 准教授 (30709803)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 生物規範システム / 自律ロボット / 線虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,極めて限られた情報処理資源(計算・通信・移動能力)しか有しない線虫C. elegansに着目し,自律ロボット群の協調的かつ効率的な探索行動アルゴリズムを構築することを目的とする.情報処理系を環境や身体といった物理的実体と調和的に用いるシステム設計に挑戦する.具体的には,生物が発揮する局所的・物理的な相互作用をモデル化し,自律ロボット群の制御アルゴリズムへと転換することで,限られた情報処理資源と単純な相互作用による,効率的なロボット群システムの実現に貢献する.令和3年度は計測系の構築,生物飼育系の立ち上げ,実験プロトコル,行動解析手順の整備確立をはかり,モデル生物の行動計測を可能とした.計測用カメラ,生体作業用クリーンベンチ等を導入し,モデル生物の飼育・計測および解析を可能とした.これらを用い,複数の線虫個体を用いた基礎実験を行い,定量的な計測のためのプロトコル設計を行った.また,計測システムとしてカメラ入力に対する画像処理系を構築し,線虫集団の行動を一定時間間隔で追尾し,その軌跡から物理的な近接・接触関係を抽出可能とした.一方,実体を持つエージェントによるパーティクル探索に対する行動アルゴリズム構築の基盤として,質点でのモデル化ではなく有意な身体サイズを有した自律型移動ロボットを想定した制御システムの数理モデル構築を行った.自律移動体集団に対して,相互の衝突を回避するとともに局所的な観測のみに基づいて調和的な行動生成を可能とする制御システムのモデル構築を行った.これらについて,シミュレーションによってその有効性を確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではモデル生物として線虫C. elegansを取り上げ,その行動の条件適応的修飾に着目して,少ない情報処理資源を効率的に活用可能なアルゴリズム・システム構成を明らかにすることを目的としている.令和3年度では,研究の基盤となるモデル生物計測系をハードウェア,ソフトウェアの面で整備するとともに,飼育維持系の立ち上げ,解析基盤となる制御システムの数理モデル構築を行った.新型コロナ禍による納品遅れや研究活動の制約はあったものの,おおむね計画通りの研究進捗を得ている.線虫C. elegansは小さく小規模の神経系しか有しない生物であるが,効率的かつ信頼性のある実験を行うためには,行動観測に至るまでの飼育および実験準備のための手順(プロトコル)策定および確実な実施が重要である.令和3年度は新型コロナ禍による活動制約によって実験回数に制約があった面は否めず,システム構築と並行して数理解析を先行して行った.具体的には,パーティクル探索システムとして実体をもった探索エージェントの行動解析および行動アルゴリズムの抽出にあたって,制御バリア関数を用いた衝突回避制御系を有する探索エージェントについての制御モデル構築,および局所的な相互作用のみに基づいて集団の調和的状態を導出可能なネットワーク制御モデルについて構築を行い,シミュレーションによってその有効性を確認した.これらの成果は,国際論文誌1編,国際会議講演1件ほかとして発表された.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で取り上げるモデル生物である線虫C. elegansは集団となったとき単体と異なる行動をとることが知られており,社会性株,単生株という他個体が放出する化学物質を選好もしくは忌避する,という対照的な行動様式を有する株を見出すことができる.さらに,状況に応じて異なる行動様式への変更を行うとも言われている.これらを計測し状況依存的な行動様式を定式化した上で,パーティクル探索システムとして解析する.モデル生物として,社会性株としてRC301系統を,単生株としてN2系統の線虫を想定する.線虫同士の相互作用は化学物質の放出および受容ないし物理的な接触にあると考えられる.ここで,化学物質を介した相互作用の解析手法が問題となる.線虫集団内での生化学物質の動態をリアルタイムに計測するのは極めて困難である.そこで,単独線虫の行動モデルを計測・構築した後,線虫の観測と計算機上の相互作用付与モデルとを併用し,陽に観測できない相互作用項を明らかにする.異種株の行動様相と相互作用について機能的効用を解析し,最終的に小型自律移動ロボットへ相互作用を含む探索行動アルゴリズムを実装し,その有効性を評価する.令和4年度は前年度のシステムを用いてモデル生物の行動特性を捉え,計算機シミュレーションにて再現可能とする.単独線虫の行動モデルを計測・構築した後,線虫の観測と計算機上の相互作用付与モデルとを併用し,陽に観測できない相互作用項を明らかにする.令和5年度には,行動様相と相互作用について機能的効用を解析する.最終的に小型自律移動ロボットへ相互作用を含む探索行動アルゴリズムを実装し,人工システムとその制御手法として有効性を評価する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う世界的な生産の停滞・物流の混乱および研究実施機関における感染拡大防止策等のため,実験機器の導入・設置が当初計画に比べて遅れたこと,また実験実施に対する出勤・登校等の制約のため,生物実験実施およびその解析に関する消耗品の購入費用および支援者への謝金等の一部を次年度に執行することとした.これに対して,令和3年度では実証用ロボットシステムの構築を念頭においた制御システムの構築および理論的検証を先行して実施し,研究成果を得た.令和4年度は新型コロナウイルス感染症の社会的情勢に注意しつつ,実験を精力的に実施し研究計画の遂行を行う.そのため,次年度使用額に計上した助成金については,主に生物実験の実施・計測・解析のための消耗品購入および支援者への謝金等に令和4年度分助成金と合算して充てる計画である.
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Research Products
(3 results)