2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K18731
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
板垣 奈穂 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (60579100)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 励起子 / ZnO / ZnMgO / スパッタリング / 量子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,明るい励起子(電子とホールがクーロン相互作用で緩く結合した準粒子)そのものを長寿命化させる,というアイデアにより,従来の励起子において存在した寿命と制御性のトレードオフ問題を解決し,励起子が量子情報を記憶する革新的デバイスを創製することを目的としている.本年度は,「長寿命な明るい励起子」実現の鍵となる, サファイア基板上へのZnMgO/ZnO超高品質ヘテロ界面の形成を行うとともに,ZnMgOの室温での励起子吸収ならびに発光を確認した.量子井戸の作製においては各層の高品質単結晶成長が前提となるが,ZnO系材料用の基板として一般的に用いられるサファイアとの大きな格子不整合率(18%)がボトルネックとなっていた.そこで本研究では,逆Stranski-Krastanov(逆SK)法によりこれを解決し,まずは障壁層となるZn1-xMgxO膜の単結晶成長を試みた.逆SKモードとは,従来報告のSKモードとは逆に,3次元島状成長から2次元成長に移行するモードである.このような成長モードの移行は従来不可能であったが,非固溶系の不純物である窒素の微量添加により表面エネルギーを制御することでこれに成功した.得られたZnMgO膜は原子レベルで平坦な表面を有し,且つ,高い面外・面内配向性を有していた.また光学測定においては,室温下での励起子吸収が観測され,さらにZn0.86Mg0.14O膜の低温PLスペクトルではフォノンレプリカによる発光を確認するなど,逆SKモード成長したZn1-xMgxO膜の高い結晶品質が示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,「長寿命な明るい励起子」の実現を目的とし,まずは量子井戸の障壁層となる単結晶ZnMgO膜の作製に注力し,それに成功した.得られた膜の品質の高さは上述のとおりであるが,それらに加えて,本研究で得られたZnMgO膜は極めて高い組成の均一性を有することが分かった.Zn0.78Mg0.22O膜断面のEDX分析を行ったところ,従来法で作製したZnMgO膜はMgが凝集した領域が点在していたのに対し,逆SKモードで成長させたZnMgO膜は一様なMg組成分布を持つことが確認された.また光学評価により室温でのエキシトンの存在も確認されたことから,上記のZnMgO障壁層上にZnO量子井戸を形成することで,本研究の目的である長寿命な明るい励起子が実現するものと期待される.上記量子井戸では,ZnOの強い圧電性 (e33~1 C/m2) により,井戸内に大きなピエゾ電界 (~MV/cm) が発生し,電子・正孔の波動関数が空間的に分離し,このため明るい励起子においても長寿命化が可能になる.この寿命な明るい励起子が実現すれば近い将来,高い制御性と長いコヒーレンス時間,室温動作安定性を兼ね揃えた励起子量子ビットの作製が可能となると期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,まずZnO/ZnMgOからなる量子井戸を形成し,井戸層を障壁層に対してコヒーレント (格子緩和させず) に成長させることでこの歪量子井戸を作製する.寿命の測定は,歪量子井戸に励起光を照射しストリークカメラにより発光寿命を観測することで行う.これにより明るい励起子における長寿命化を実現する.さらに上記で得た歪量子井戸に金属微細加工を行い量子ドットを作製,これにパルスレーザー光を照射して量子ビットの操作を行う.まず単一量子ドットに対して,電子と正孔の基底状態のエネルギーに対応したパルス光を照射し,照射光の強度変調を行った際の発光強度の振る舞いを調べる.ラビ振動 (基底状態の励起子が “ある” 状態と “ない” 状態の2準位間でのコヒーレントな振動)を確認し,1量子ビット回転ゲートの実現を目指す.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:当初購入を予定していた,量子井戸形成用真空装置治具の購入費が少なく済んだため.またその他に計上していた分析費用についても,研究協力者にその分析を依頼したことで0となった.予定していた学会参加も全てオンラインになったことで,未使用額が生じた. 次年度使用額の使用計画:次年度は,デバイスの作製・動作実証に注力する予定としており,そのための各種材料の購入費や真空装置部品,電子部品,ならびにそれらの成果発表のための国内外の学会参加費および旅費に支出予定である.また,作成したデバイスの評価のための分析依頼や分析のための旅費等に使用する予定である.
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Research Products
(38 results)