2021 Fiscal Year Research-status Report
ナノ秒パルス高電界による白血球の活性化現象を利用した献血成分の有効活用
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21K18732
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
矢野 憲一 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 教授 (70311230)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | ナノ秒パルス高電界 / 生体応答 / 白血球 / 活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノ秒オーダーのきわめて短い時間に強い電気的作用をもたらす手法であるナノ秒パルス高電界は、その処理強度に応じて様々な細胞応答を誘発することが可能であることから新しい医療手段として注目を集めている。白血球の大多数は好中球と呼ばれるタイプであるが、これをナノ秒パルス高電界で刺激すると、細胞が活性化されて、核内から細胞外へと染色体DNAが放出される。この現象は好中球細胞外トラップ形成 (NET形成) と呼ばれ、人体においては病原菌に対する防御機構として機能している。本研究は、ナノ秒パルス高電界による白血球活性化を効率よく行うための手段を確立することを目的とする。本年度は白血球活性化のためのナノ秒パルス高電界の処理条件について検討した。ヒトHL-60細胞を培養条件下で好中球様細胞へと分化させて、これに80ナノ秒のパルス高電界を作用させ、NET形成を測定した。まず総エネルギーが一定となるように異なる電界強度と処理回数を組み合わせて、細胞を処理したところ、電界強度がある値以上であることが必要であり、それ以下だと総エネルギー量が同じであってもNET形成が起こらないことを見いだした。続いて細胞外にカルシウムが存在することがナノ秒パルス高電界によるNET形成に必要であることを再確認した。さらにナノ秒パルス高電界処理によるNET形成の生体メカニズムについて解析した。ヒト細胞が持っている多様な生体反応経路に対する各種阻害剤を細胞に作用させ、ナノ秒パルス高電界処理を行い、NET形成を解析した。その結果、NET形成を抑制する阻害剤を一つ同定し、この阻害剤の標的分子の活性化が、ナノ秒パルス高電界によるNET形成を引き起こすと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、本年度はナノ秒パルス高電界の処理条件について解析を行った。総エネルギー量が同じで、電界強度と処理回数が異なるようなナノ秒パルス高電界処理条件を比較することで、好中球活性化のためのナノ秒パルス高電界処理には電界強度のしきい値が存在することを示すことができた。またナノ秒パルス高電界による好中球活性化の分子メカニズムには不明な点が多かったが、これを抑制する薬物を同定することができた。このことは、ナノ秒パルス高電界処理によって、細胞内の特定の生体分子が活性化し、さらにNET形成という細胞レベルでの現象が誘発されることを示しており、新しい知見といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、4 mm間隔の平行平板電極の間に0.4 mlの細胞懸濁液を静置し、ここにナノ秒パルス高電界を作用させる実験系が用いられてきた。次年度は当初の計画に基づき、より大きな容量のサンプルに対してナノ秒パルス高電界処理を行うことを試みる。大容量のサンプルに対してナノ秒パルス高電界処理する際の電気的・化学的条件について至適化を行う。
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Causes of Carryover |
経費削減に努めたことに加えて、研究支援者を雇用して行う実験の一部を次年度に行うことにしたため、次年度使用額が生じた。翌年度分の研究費と合算して、当初の計画通りの研究内容を推進する。
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