2022 Fiscal Year Research-status Report
超小型衛星による地域主体水管理の概念実証に向けた水文気象情報と衛星条件の地域分析
Project/Area Number |
21K18744
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鼎 信次郎 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (20313108)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸 里枝 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (70799436)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 水管理 / 衛星観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、超小型衛星による地域主体型水管理の概念実証に向けた初期段階として、近年の国内外の水関連災害や水管理を対象とし、a)本テーマに求められる水文気象情報の種類と信頼性(警報、避難、確率、危険レベル)・タイミング(リードタイム、頻度)・伝達手段を明らかにし、地域性の関数としての必要な水文気象情報を調査する。b)上で定義された水文気象情報を得るために必要な水文気象データと、その要求精度等を調査する。ここでは、申請者らが開発してきた物理的な雲降水予測モデル、人工知能貯水池操作モデル、水文モデル等によるシミュレーションを実施し、その開発も研究の主要な一部とする、といったあたりを狙いとしている。本年度は降雨予測とダムからの放流量の関係なども検討したが、ここでは物理的な雲降水予測モデルへの衛星同化について述べる。 本年の最大の成果について、本研究と密接に関係する水工学論文集において出版された説明文を用いて、本年度の進展の特徴を説明する。近年、小型衛星技術が急速に発展し、地球観測を目的とした受動的マイクロ波センサ搭載の小型衛星群も実用化に向けて計画されている。こうした技術の水文気象分野での迅速な応用に向けて、本研究では、仮想観測シミュレーションと観測システムシミュレーション実験(OSSE)を組み合わせて、将来実現される小型マイクロ波衛星群の、現実的な観測データを同化した場合の地域・流域スケールの降水予測性能の評価手法を構築・適用し、予測性能を衛星群構成の設計パラメータとの関係にまで落とし込んで示した。その結果、小型マイクロ波衛星観測の高頻度同化によって降水域・強度の短期予測精度が顕著に向上することが示されると同時に、衛星群の構成によって観測頻度及び時間間隔のばらつきが変わることが、降水予測精度に比較的大きく影響することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
同様に、本研究と密接に関係する水工学論文集において出版された説明文を用いて、本年度の進展の特徴を説明する。近年発展が目覚しい小型衛星群の技術で、受動的マイクロ波観測が実用化された際に、水文気象分野への応用にいち早く繋げること、更に、衛星群の設計段階において、水文気象側からの要求性能を提示するための枠組みを世界に先駆けて構築すべく、小型衛星群の仮想観測シミュレーションとOSSEを組み合わせて、小型マイクロ波衛星群の現実的な観測を同化した場合の降水予測精度の評価手法を提案し、予測性能を衛星群設計のパラメータとの関係にまで落とし込んで示した。 予測精度の評価の結果、小型マイクロ波衛星観測の同化によって、地域スケール・河川流域スケールの降水予測精度が、降水域の位置・強度ともに、顕著に改善することが示された。また、高頻度に逐次同化を行うことで、同化の効果が大気場を持続的に改善し、比較的安定して精度の高い予測が行えるようになると考えられる。 衛星群の設定における整数パラメータを変更した複数の実験からは、観測の得られる頻度だけでなく、観測の時間間隔のばらつきも降水予測精度に、比較的大きく影響することが示された。これより、降水予測精度を効果的に向上できる衛星群の構成を検討するにあたっては、本手法のような仮想観測シミュレーションを行うことが重要であることが示唆された。 このように、仮想観測シミュレーションを行うことで、より現実的な観測タイミング・観測範囲での仮想観測データを作成したうえで、OSSEを行うことを可能とし、その効果を示したこと、そしてOSSEの結果から、望ましい降水予測精度を実現するために、要求される衛星群の構成を直接的に検討し、衛星群設計コミュニティに提案する手法が構築されたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
同時並行で,ダムからの事前放流に関係した研究も進めている.ダムの能力を上回る洪水が増加する中,降雨予測に基づく事前放流を実施する動きが全国のダムで活発化しており,降雨予測の精度向上への需要も高まっている.ただ,降雨予測の不確実性が事前放流判断に与える影響は依然大きく,さらなる精度向上が望まれている.他方で,降雨予測の性能と事前放流の成功可否の関係性を定量的に示した情報は少ない.そこで,過去10数年の全国のダムにおける事前放流判断の視点から,要求される降雨予測精度の水準や今後の改善の方向性を示すことを試みる.具体的には,一級水系の全ての多目的ダムと出水期の実測雨量(解析雨量)を用いて分析を行う.事前放流の社会的な関心の高さに対して,実際に事前放流が要求された頻度や,その地域・気象要因別での偏り具合を調べた情報は少ないため,地域やダム,気象要因に偏りがあるかどうかは,固有の事情に特化すべきか,全国一律で気象モデルを改善すべきかを考える.リードタイムも重要な視点であり,異常洪水時防災操作に移行する事例が度々あるが,何時間前の時点で何時間先まで把握できていれば良かったかを整理したい.空間分布の要素に触れる.具体的には,解像度の違いと,雨域の位置のずれの影響に着目する.また,解像度について,降雨予測の高解像度化は進んでいるが,例えば線状降水帯や地形性降雨をどこまで明瞭に捉えるべきか把握することについて検討する.
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、出張や研究会参加に関わるもの、また同時に発生した半導体不足により、計算機関係の物品やリソースの購入や関連の研究補助などを後回しにし、令和4年度は現状の設備等で実施可能な研究を優先的に推進したため。 令和5年度は国際学会も例年通り開催される予定であり、研究成果の発表、従来のような対面での研究打ち合わせ、研究補助者の雇用等が可能となったため、旅費や人件費としての使用を予定している。また、研究成果の論文の投稿料、英語論文校正費、掲載料等としても使用予定である。 具体的には、海外で開催される学会(IUGG2023, AGU Fall Meeting2023等)での成果発表(旅費600千円×2=1200千円、参加登録料100千円×2=200千円、投稿費5千円×2=10千円程度)、国内で開催される学会(水文水資源学会、水工学講演会等)での成果発表(旅費70千円×3=210千円程度)、水工学論文集掲載料(35千円)、海外ジャーナルへの掲載料(400千円)英語論文校正費(100千円)、人件費・謝金(研究補助者人件費800千円)、補助者使用端末(120千円)、研究打ち合わせのための旅費(5千円×3=15千円)、研究成果保存用記憶媒体(80千円)等を予定している。
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Research Products
(5 results)