2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K18800
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
増野 敦信 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (00378879)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 無容器法 / ガラス構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,無容器法によって合成した様々な高秩序ガラスに対して,「原子配列の秩序度」という概念を導入し,実験的裏付けのある構造モデルを利用した定量化パラメータを導出することである.今年度は,新規ガラス組成としてR2O3-SiO2二元系(Rは希土類元素あるいはSc)を見出し,NMRやRaman散乱分光により,これらが高秩序構造を有していること,すなわち,R3+とO2-からなる高秩序配列の四面体隙間に,Si4+が入ることで非晶質構造が形成されていること,を示唆する結果を得た.また,Al2O3-SiO2ガラス,R2O3-B2O3ガラス,R2O3-SiO2ガラスについて,中性子回折や放射光X線回折実験を行うことができた.得られた回折データからは,これら高秩序構造を有しているとされるガラス中では,酸素の充填度が一般的なガラスと比較して高くなっていることがわかった.さらに還元原子配列マップを他のガラス系に広げるために,新たなソフトウェア開発が進められた.現時点で,MDシミュレーションなどで作製した三次元構造モデルから,RAAマップの作成が可能となっている.CaO-SiO2二元系でCaOの濃度を0mol%から100mol%まで10mol%刻みで作成した構造モデルに対して,このソフトウェアを利用したところ,実験的にはバルクガラスが得られないCaO高濃度領域では,高秩序状態となっていることが確認できた.一方で通常の溶融法でバルクガラスが得られるCaO低濃度領域のRAAマップは,これまでとは異なる分布を描画しており,ネットワークガラス特有の構造もRAAマップから判定できる可能性があることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するアプローチとして,今年度は3つの点から研究を進めた.まず全ての基盤となるのが,無容器法による高秩序ガラスの合成である.新たにR2O3-SiO2(Rは希土類元素あるいはSc)二元系のガラス化に成功し,幅広いガラス化範囲を決定した.修飾酸化物とSiO2からなるシリケートガラスは,古くから知られている材料であるが,希土類酸化物を修飾酸化物として用いた場合のガラス化は報告されていなかった.これは希土類イオンが3価であり,SiO4頂点共有ネットワークを切断する能力が非常に高いことに起因すると考えられる.29Si MAS NMRやRaman散乱分光測定の結果から,SiO4はダイマーかモノマーになっており,R2O3-SiO2二元系ガラス中のネットワーク切断は大きく進行していることがわかった.それにもかかわらずガラス化したということは,R3+とO2-からなる高秩序配列の四面体隙間に,Si4+が入ることで非晶質構造が形成されていることを示唆している.新たな高秩序ガラスのベース組成として利用できる系である. 2つめとして,高秩序ガラスについて,量子ビームを利用した構造解析を進めることができた点である.今年度はR2O3-B2O3ガラス,R2O3-SiO2ガラスの放射光XRD,Al2O3-SiO2ガラスの中性子回折実験を行った.得られた回折データから,酸素のパッキングが一般的なガラスよりも大きくなっていることが推定できた. そして3つめが,還元原子配列マップ(RAA)の活用である.これまではBaTi2O5ガラスでのみRAAマップが用いられていたが,新たにソフトウェアを整備することで,様々な構造モデルへの応用が可能となった.さらにRAAマップ作成における種々のパラメータを調整することもできるようになった.本研究の最終目標を実現する上で大きな一歩である.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに我々が無容器法によって合成した高秩序ガラス,TiO2系,Nb2O5系,WO3系,Al2O3系,Ta2O5系,R2O3-B2O3系に,新たにR2O3-SiO2系が加わった.今後の高秩序ガラスの構造研究を,より一般化するうえで大きな成果である.これらの系については,MDシミュレーションによって,回折実験データを再現する構造モデルの作製を行っていく.ただし,一般的なネットワークガラスでよく用いられていた二体ポテンシャルでは,うまく回折実験データを再現できないことがわかってきた.これはこれらのガラスの充填密度が非常に大きいことが影響していると思われる.そのためまずはよい二体ポテンシャルのパラメータを決定することが必要となる. ソフトウェア開発については,RAAマップを作成できる段階まで到達しているので,今後はこのマップを定量的に評価する機能を付加する方向に進めていく.また,パーシステントホモロジー解析用ソフトウェアも着実にバージョンアップが行われており,RAAマップとは違った観点から定量解析データの取得が可能となっている.MDシミュレーションを用いた3次元構造モデルの作製自体は容易であるので,これらソフトウェアを利用することによって,今後大量に解析データが得られるようになると期待される. 高秩序構造の定量化に有用な実験も今後進める予定である.放射光XRD,中性子回折,XAFS,さらには高磁場NMRについては,すでに今年度の実験機会を確保しており,順調にデータが得られると思われる.VUV分光に関しては,測定できる実験施設が限られているためビームタイムの確保が課題となるが,今後申請を行う予定である.
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Research Products
(18 results)