2022 Fiscal Year Research-status Report
汎用溶媒を介した室温でのVapor-Liquid-Solid型結晶成長への挑戦
Project/Area Number |
21K18843
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
稲澤 晋 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30466776)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | Vapor-Liquid-Solid / コロイド結晶 / 水-油界面 / 物質移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、常温のコロイド分散液を用いてVaporーLiquidーSolid(VLS)機構が起こる可能性を検討している。VLS機構は、無機半導体材料で生じるウィスカー生成のメカニズムとして提唱され、ナノワイヤーなどの極細の一次元材料の生成手段として用いられている。原料原子の金属液体への自発的な溶け込みを利用しているが、原子とはスケールが大きく異なるコロイド粒子に適用できる可能性を検討している。1つの重要な点は、気液や液液の界面を介した物質移動がどのように起こるのか、という学術理解である。 2年目はこの点に力点を置き、水と油の界面で物質移動がどのように起こるのかを基礎的な系で検討した。具体的には、両親媒性の分子(界面活性剤)をモデルとして用い、水と油(不揮発)の両方に溶解させた。密度の関係で水の上に油が存在するlayer-by-layer構造である状態で、下層の水を蒸発させると、水中の活性剤濃度が上昇する。これに伴って、水中で過剰となった活性剤分子が油中に自発的に移動する。この移動速度と、活性剤の油相への移動に伴う水の蒸発速度の変化を測定した。その結果、活性剤が油中に移動するほど水の蒸発速度が下がること、蒸発で水の割合が大きく減ると、水と油の活性剤濃度が平衡組成からずれること、を明らかにした。特に平衡組成からのズレは、水の蒸発速度が極めて遅い条件でも確認された。平衡状態での溶解度は、速度過程での溶解濃度を考える上で参考程度にしかならないことを意味する。コロイド粒子の分散限界濃度についても同様のことが言えると推察される。界面が関わる複雑な現象の一端を明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
界面をまたいだ現象は基本的に観察が難しいが、2022年度の成果では液界面を介した物質移動現象を確認できた。コロイド粒子の移動に拡張するにはまだハードルが多いものの、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
界面を介した物質移動に引き続き取り組む。界面に対して粒子の移動ベクトルが垂直ではない場合に起こる現象や、界面を介した熱の移動にも視野を広げ、界面が関与する物質や熱の移動現象の学理を明らかにする。これらの知見に基づいて、コロイド粒子VLSの可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
想定以上にシンプルな観察系で実験が可能となったことから,想定していた実験機の購入や実験補助者への謝金支払いを大幅に抑えられた。また、コロナ禍のため移動を伴う学会参加の件数が少ないままであったことも次年度使用額が発生した理由である。 顕微鏡を用いた非接触の観察が研究の肝であるため、顕微鏡もしくは観察光学系の進化・充実に用いる予定である。
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