2021 Fiscal Year Research-status Report
Challenge to manipulate and control valley current for realization of valleytronics
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21K18865
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
青木 伸之 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (60312930)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | バレーホール効果 / バレートロニクス / 量子ポイントコンタクト / 遷移金属ダイカルコゲナイド / ゼロ磁場スピン分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
電荷・スピンに次ぐ第3のエレクトロニクスとして期待されるバレートロニクスは,散逸の無いバレー流を利用し,正味の電流をゼロに保った超低消費電力デバイスの実現が期待されている。しかし,無散逸ということは,外部からのアクセスも容易でなく,実用化を考える上で極めて致命的な問題となっている。そこで本研究では,バレーホール効果の発現が期待される遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)を用い,バレー流の通り道に量子ポイントコンタクトを配置することで,バレー流に対する量子化制御の可否を問うことを進めている。そのため,今年度は先ず,WSe2に対するスプリット型におけるQPCの動作特性を評価するため,3層WSe2を用いたQPC素子の作製を行った。WSe2のバンド構造を考慮してp型での動作を目指し,Nbドープ多層p^+-MoS2をコンタクト材料に用いることでホール注入障壁を下げ,更には六方晶窒化ホウ素(h-BN)によるカプセル化をすることで量子化伝導度の観測に必要な高移動度化を図るなど,様々な工夫を取り入れて試料の作製に取り組んだ。その結果,極低温でe^2/hを単位とした伝導度の量子化現象を観測し,またバイアス特性ではゼロ磁場スピン分裂を示唆するハーフプラトーおよびゼロバイアス異常を観測するに至った。このように,世界で初めてp型で動作するTMDC-QPCの特性評価に成功し,そこでの伝導はバレーとスピンの両方の縮退が解けていることが明らかになった。これらの結果をまとめ,American Chemical SocietyのNano Letters誌に投稿し,9月初旬に掲載が決定した。このように,バレー流の観測するための素子内にQPCを入れることで,スピン分裂した実電流の利用や,バレー流自体のQPC制御に利用できる可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではバレー流の静電的な制御を目的としており,バレーホール効果を観測する舞台として当初はグラフェンとh-BNとのモアレ超格子を想定していたが,自発的に対称性の破れているTMDCを使った方が容易であるとの考えから,WSe2を用いた研究へと切り替えた。昨年度は3層WSe2に取り付けたスプリットゲートを用いたQPC構造を作製し,ゲート電圧の制御により,e^2/hを単位とした伝導度の量子化現象の観測に成功した。これにより,3層をナノスケールに閉じ込めることで,KとK'のバレーの縮退とスピンアップとダウンのスピン縮退の両方ともが解けた伝導が生じていることが示された。このような構造をバレーホール効果の観測に適用すると,Kだけに偏ったバレー流を発生させる可能性があり,電気的な制御へとつながると期待している。さらに,逆バレーホール効果の観測にはWSe2結晶へのp型オーミックコンタクトの実現が重要であると考え,これまで利用してきた高Nbドープn型MoS2バルク結晶を用いたファンデルワールスコンタクトに加え,WSe2の端部に直接に金属を取り付けるエッジコンタクトを実現することが有効であると考えた。そのため,電子ビーム蒸着装置内の試料ステージに高周波導入端子を取り付け,逆スパッタ処理が行えるよう,装置の改造を行った。これにより,反応性イオンエッチング装置で端部をエッチングしたWSe2試料を電子ビーム蒸着装置内に入れ,金属蒸着の直前に高純度アルゴンを使用して逆スパッタ処理を行うことで,WSe2結晶端部の酸化物層を取り除き,エッジコンタクトが実現できるようになってきた。このように,バレーホール効果の観測とQPC制御に関する準備を整えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に確立させたTMDC試料に対するエッジコンタクト法を利用し,オーミックコンタクトを取り付けた単層WSe2のホールバー素子を完成させる。その素子に対して電流を流し,非局所電圧を測定することでバレーホール効果が生じていることを確認する。これに対してホールバーの間にQPC構造を導入し,バレーホール効果による非局所電圧のQPCによる制御を試みる。とくに,QPCで期待される離散的エネルギー準位を介してバレー流がどのように伝搬されるかについて検証する。また,ホールバー上を強磁性探針で走査することによる非局所電圧の変化をマッピングする非局所走査ゲート顕微法観察を試み,バレー流に対する変調効果の可否を検証する。さらに,バレーホール効果を発生するための局所電流の印加にナノ秒スケールのパルス電圧を用いることで,発生する非局所電圧の時間分解計測を行い、バレー流の伝搬に対する時間スケールの検証を行う予定でいる。
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Causes of Carryover |
本年度の予算を執行していく上で1,124円の残金があることが判明したが,現時点においては特段の消耗品等の購入予定がなかったため,そのまま残すことにした。この金額は,次年度で購入予定のしかるべき消耗品の購入の際に合算して使用する予定でいる。
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Research Products
(17 results)