2021 Fiscal Year Research-status Report
RIプローブと蛍光プローブの差異を明らかにするための薬剤挙動に関する動態解析
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21K18919
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 浩之 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70216753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳衛 宏宣 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 客員研究員 (30212278)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | Radioisotope / 放射能 / PET / FDG / 蛍光体 / グルコース |
Outline of Annual Research Achievements |
当初は18F-Boronophenylalanine (18F-BPA)と有機蛍光色素をBPAに結合させた蛍光プローブの合成を行い比較実験を行う予定であったが研究開始が新型コロナ感染症の影響を受けて、後ろ倒しとなり、18F-BPAの合成に手間取っているため、グルコースを対象としたプローブの比較を更に進めて論文を出版することを目標として、性質の異なる複数の細胞、RWPE-1(前立腺)、RWPE-2(前立腺がん)、MKN45(胃がん)、SKOV3(卵巣がん)を用い、RIおよび蛍光体を用いたグルコース誘導体の細胞内取り込みの比較実験を行った。RIプローブは、①PET薬剤の18F-FDG、蛍光プローブとしては、②2-NBDG、③2-DG-750を用いた。18F-FDG はグルコースの2 位の水酸基を18F で置換した化合物である。2-NBDG はグルコサミンのアミン基が7-ニトロベンゾフラザンに置換された化合物、2-DG-750 は1蛍光分子あたり4 分子のDG が含まれるよう設計された1000 以上の分子量を持つ化合物である。プローブとグルコースを欠如させた接着状態の細胞をインキュベート後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)による洗浄を3回実施し、細胞内部に取り込まれたプローブの定量を行った。この結果、RWPE-1に取り込まれた量は、①4.10%, ②0.02%, ③0.00%といずれも少なかった。RWPE-2では、①27.45%, ②0.02%, ③0.00%、MKN45では、①43.19%, ②0.02%, ③0.00%、SKOV3では、①30.59%, ②0.00%, ③0.00%といずれも18F-FDGが細胞内に大きく取り込まれていた。これより、細胞内への取り込みはRIプローブと蛍光プローブで大きな差異が生じていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PETではRIを用いて薬剤の体内動態のイメージングが可能である。一方、薬剤に蛍光物質を結合させて生成された蛍光プローブは、RIを利用する際に必要な放射線管理等の必要がなく、取り扱いが簡便であるため、広く用いられているが、蛍光物質である蛍光分子はサイズが大きく、また、極性を有していたりするので、生体内部での動態を変化させる可能性がある。プローブとしては蛍光によりその位置がわかるにせよ、蛍光標識したことにより、対象分子の挙動が異なってしまうのであれば、本来のプローブの役割を果たさないことになる。特に生体内で、薬剤や対象分子が細胞に取り込まれたりする際の挙動が大きく異なると、その利用は限定的になると考えられる。このような考え方をもとに、ホウ素中性子捕捉療法で広く用いられているボロンフェニルアラニン(BPA)に注目し、PETで描出可能な18F-BPAを対象に実験を行うことを当初計画していたが、研究開始が新型コロナ感染症の影響を受けて遅れ、18F-BPAの合成に時間を有することから、本年度は、これまでに予備実験として行ってきた、やはりPETで描出可能なグルコース誘導体プローブとして実際にPETで広く用いられている18F-FDGと他の蛍光プローブとの挙動を異なる腫瘍細胞を対象として、系統的、定量的に行い、その結果をまず、論文としてとりまとめることに主眼において、研究を進めた。この結果、RIプローブと蛍光プローブの間で細胞内取り込みについて定量的に大きな差異が生じていることが明らかになった。これを現在、論文として出版することを進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究により、RI標識と蛍光標識の差異について、細胞内に取り込まれるかどうかが大きな違いとなっていることが明らかになった。18F-BPAを用いた実験を実施することについては、引き続き検討を進めていくが、合成がうまくできない場合には、18F-BPA以外のRIプローブも対象として含め、別の分子と核種においても細胞内取り込みの差異が動態としてどのように影響するのかを明らかにすることを目的として、マウスなどの小動物を用いたイメージングを行い、RIプローブと蛍光プローブの動態の差異をイメージング結果として明らかにすることを検討している。なお、F-18の場合、半減期が110分と比較的短いため、長時間の動態を追跡する際には、より半減期の長い核種を用いることが望ましい。このため、In-111やZr-89などいくつかの核種について現在検討を行っている。これらの結果を論文として出版し、RIのトレーサー利用としての再興のきっかけとなる議論がなされるような成果を得ることを目指して研究を推進する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で当初計画していた実験内容を変更して、既に入手可能なプローブを用いた実験を主体に行い、新たにRIプローブを合成する実験については次年度に行うこととし、RIの購入費や試薬の購入費、実験補助者の人件費として利用する予定である。また、感染症の影響が引き続き継続しており、学会参加のための旅費などが不要となったため、次年度に利用することとした。
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