2021 Fiscal Year Research-status Report
Fluorescence on -off switching by single wavelength irradiation: Development of highly durable nanoparticles and application to single particle fluorescence measurement
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21K18934
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮坂 博 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40182000)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 超解像 / 蛍光ブリンキング / 単一ナノ粒子 / 蛍光スイッチング / 単一波長スイッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
超解像光学顕微手法の1つであるlocalization法は、単一分子の蛍光像の重心を数nmの空間分解能で決定し超解像を得る。この手法は、静的イメージングのみならず、ホスト媒体中の蛍光分子の拡散挙動等のダイナミクス測定にも応用されている。しかし直径200nm程度の回折限界サイズの複数の蛍光像が重なるとlocalization解析が不可能となるので、通常は蛍光ONとOFF状態のスイッチ可能な分子を用いてスイッチ光により状態間制御を行い、希薄な蛍光ON状態分子濃度を保つ必要がある。また単一分子蛍光観測では非常に強い蛍光励起光が必用であり、色素の光劣化も迅速に進行する。このため1分子あたりの測定可能時間はせいぜい数分程度で、モニター可能な空間も限定されるため、長時間、広域空間の詳細な知見を得ることは困難であった。一方、我々は最近可視域の単一波長照射下でナノ粒子全体の蛍光のON-OFF挙動を示すナノ粒子を見出した。このナノ粒子は、開環体(蛍光OFF)と閉環体(ON)の間の光異性化を行うジアリールエテン分子10の4乗個以上からなる粒子であり、当然、多数の分子がいっせいに光反応によりON-OFFスイッチを行うわけではない。本研究では、数時間以上、数10ミクロンサイズ以上の広域空間の測定を可能とする高耐久性蛍光ON-OFF有機ナノ粒子の作成を目的とし、この蛍光のON-OFF挙動の機構解明、これに基づく粒子全体の蛍光ON-OFFスイッチングの新手法の開発と応用を計画した。2021年度は、単一ナノ粒子の蛍光ONおよびOFF時間の励起光強度依存性、完全OFF状態からの光異性化に伴う蛍光強度の変化等を測定し、温度変化に伴う溶液中スペクトルの変化と合わせて考察することで、ナノ粒子の中で閉環体が隣接して生成した多量体が非蛍光性のエネルギー受容体として作用すると考えられる結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いた粒子は、開環体(O, 蛍光OFF)+ hv(紫外光)→ 閉環体(C, 蛍光ON)および 閉環体(C, ON)+ hv(可視光) → (O, OFF)の環開閉光異性化反応による蛍光スイッチング可能なジアリールエテン誘導体のみから構成され、分子レベルの開環反応収量は小さい。集合体の組成としては90%以上がON状態(C)にあり、またOFF状態(O)はエネルギーレベルが高いためC(ON)の励起エネルギー受容体にはならない。2021年度には、単一粒子を対象に、粒子全体のON時間およびOFF時間に対する励起光強度依存性を測定した結果、どちらも励起光強度の増大ともに短くなることが判明した。また全ての分子が開環体(O)のナノ粒子に光照射を行い、異性化に伴う吸収の変化(閉環体の増加)および蛍光強度の変化を多数粒子のアンザンブルとして測定した結果、光照射時間の経過とともに、閉環体の増加に伴う吸収は単調に増加するが、蛍光は照射初期には増加するが、全分子の10-15%が閉環体に変化した後は、その強度が減少した。 また溶液中における吸収と蛍光スペクトルの温度依存性からは、低温になるにつれ、吸収および蛍光スペクトルが長波長にシフトするとともに、蛍光強度の著しい減少が観測された。これらの結果をKashaの励起子分裂モデルを基に解析したところ、温度低下とともに会合体が生成しその会合数が増加するとの結果が得られた。 これらの結果から、ナノ粒子固体中で光閉環反応(O→C)によりON状態分子(C)が隣接して生成した場合には弱蛍光性性の会合体が形成され、エネルギー移動の受容体として作用するとともに、蛍光の消光剤として作用することが示された。以上のように、定性的ではあるが、単一粒子の蛍光ON-OFF機構はほぼ解明できており、研究は当初の計画通りに進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の測定から得られた知見に基づき、粒子サイズ、粒子形状や形態などの定量的なデータを基に、機構を定量的に明らかにすると共に、ON-OFFスイッチングに対して粒子と励起条件を最適化する。特に、我々が見出した、開環体吸収のUrbach tailの励起による可視単一波長による分子レベルのON-OFF制御法も波長、強度などを最適化してナノ粒子に応用する。この手法を、生成後、数日以上の時間で進行する高分子固体内の構造緩和や有機薄膜のアモルファス-結晶転移などの長時間ダイナミクスの測定に応用し、手法の有効性を確認する。またサイズの異なる粒子(数nmから数10nm)を用いて、高分子フィルム中の並進拡散挙動の追跡を行う。高分子中のゲスト分子の並進拡散では、ブラウン運動とは異なる異常拡散挙動が観測される。これはアモルファスホスト中の自由体積の空間分布とその時間揺らぎに大きく依存すると考えられ、拡散係数と粒子半径の関係から、これらの揺らぎの分布に関する直接的な知見を取得する。測定には現有の単一分子蛍光測定顕微システムを用いる。励起光源には可視cwレーザーによる落射照明配置で広視野励起を行う。本研究では、このシステムのX-Y ステージに温度コントローラーを設置する。また、Utbach tailは高い振動準位の占有数に比例するので、単位時間あたりに現れる発光スポットの数(OFF-ONスイッチされた分子数)は温度上昇と共に、Boltzmann分布に従い増加することが期待できる。また反射対物レンズを新規購入し、界面近傍(100nm以下)の挙動を選択的に取得し深さ方向に依存した物性の取得にも対応できるよう装置の高度化を行い、多数分子の解析を含めて手法の有効性を検証し、これらを基に研究を総括する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍および半導体不足により、レーザー光源に関係する高調波発生ユニット、また解析用のワークステーションの年度内納品が間に合わなかっため、21年度には最初の計画とは異なり、22年度に繰り越しとなっている。一方、高調波発生ユニットは、ウクライナの状況も関係するものの、近日中の納品が予定されている。また、ワークステーションについても目的の性能を持つ機種の再選定が修了しており、購入を予定している。この結果、基本的には、当初の計画に沿った研究の遂行が可能となる。
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Research Products
(4 results)