2021 Fiscal Year Research-status Report
Development and Application of Multi-Pulse Ultrafast Spectroscopy to Reveal Essential Characteristics of Reacting Molecules
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21K18943
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田原 太平 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (60217164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松崎 維信 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70830165)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 超高速分光 / フェムト秒 / 反応ダイナミクス / 構造不均一性 / 非調和性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は特に、反応中の分子の構造不均一性を明らかにするためにフェムト秒時間分解吸収スペクトルに対するホールバーニング測定を行う為の過渡二次元電子分光装置の製作を行った。Yb再生増幅器を光源として用い、その出力の半分を、反応性分子を生成するための反応開始光の発生に用いた。具体的には、第4高調波発生によって生じる深紫外光を反応開始光とした。再生増幅器の出力の残りは、自作の非同軸光パラメトリック増幅器により広帯域な可視光へと波長変換し、更に可変形鏡に基づくパルス圧縮スキームを用いることでサブ10フェムト秒の超短パルスへと圧縮した。得られた超短パルスの大部分を、偏光を斜めに傾けた上で複屈折性の媒質からなるウェッジペアを通すことで、2つのパルスからなるパルス対へと変換し、反応性分子を励起するのに用いた。ここで、ウェッジペア内部での波長分散は負分散ミラー対を用いることで補償されており、対をなす2つのパルスのパルス幅はいずれもサブ10フェムト秒となっている。また、ウェッジペアを光路に対して垂直方向に移動させることで、パルス間の時間間隔を挿引することができる。残った超短パルスはそのまま試料へと照射し、パルス対の照射による反応性分子の吸収スペクトル変化を測定するのに用いた。この吸収スペクトル変化をパルス対の時間間隔の関数として測定し、得られた2次元データをパルス対の時間間隔についてフーリエ変換することで、様々な励起波長における反応性分子のホールバーニングスペクトル、すなわち過渡二次元電子分光スペクトルを取得することができる。製作した装置を用いて、最も基本的なアニオン種であり、長らく議論されているにも関わらず未だに実験的証拠が得られていない水和電子の不均一性を観測するための実験を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまでのほとんどの時間分解測定で用いられている「変化を開始する」ポンプ光と「変化を観測する」プローブ光の2つの光パルスに加えて、もう一つ反応中の分子に「変化を与える」光パルスを加え、反応中の分子の性質を明らかにするための3つのパルスを用いた超高速“アクション”分光を実現することを目指している。具体的には、(1)反応分子の構造不均一性を明らかにするためのフェムト秒時間分解吸収スペクトルのホールバーニング測定(過渡二次元電子分光)、および、(2) 時間分解インパルシブラマン分光をベースに反応する分子の非調和性を明らかにする5次時間領域ラマン分光測定、に挑戦している。今年度は、このうち前者の過渡二次元電子分光の装置製作を完遂させ、実際に行いたいと考えていた実験を遂行することが可能になった。製作した装置を用いると高いS/Nでフェムト秒時間分解吸収スペクトルのホールパーニングが観測可能であることが確認され、最も基本的なアニオン短寿命種である水和電子に対する実験を開始した。計画通り順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
ポンプ光とプローブ光を用いる従来の時間分解分光測定では反応中の分子の性質を十分に明らかにできないため、これに反応中分子に「変化を与える」パルスを加え、3パルスを用いた超高速“アクション”分光を実現することが本研究の目標である。具体的には以下の2つの実験に挑戦するが、これらを今後以下のように推進する。 (1)反応分子の構造不均一性を明らかにする過渡二次元電子分光:装置が完成したので、これを用いて実験を行う。すでに水和電子に対する実験を開始しており、有望なデータが得られつつある。これを推進しながら、電子励起状態分子に対する実験に挑む。超高速で反応する電子励起状態は高いエネルギー障壁には囲まれていない反応性ポテンシャル曲面の傾斜部、鞍点、あるいは平坦な部分に光励起によって作られる。常温溶液では光励起直後フランクコンドン状態から様々なトラジェクトリーをとって構造変化を開始するため、反応中分子はフェムト秒領域で過渡的に広い構造分布(構造不均一性)を持つと考えられるが、そのような現象は未だ観測されていない。超高速反応するスチルベンおよびその誘導体やシアニン分子などに対する実験に挑戦する。 (2)反応する分子の非調和性を明らかにする5次時間領域ラマン分光:通常の安定分子が感じるポテンシャルは調和ポテンシャルで大変良く近似できるが、反応中の分子は極めて非調和性の高いポテンシャルを感じていると考えられる。この非調和性を明らかにすることは、反応を司る分子の内部エネルギー移動を明らかにすることに直接つながるため本質的である。我々が世界に先がけて実現した電子励起状態に対する時間分解インパルシブラマン分光をベースとする5次時間領域ラマン分光は、2つの核波束運動の相関として非調和性を直接検出することができる。非同軸パラメトリック増幅器を作成・付加するなどの装置の拡張を行い、これを実現する。
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Causes of Carryover |
令和3年度に製作したフェムト秒時間分解吸収スペクトルに対するホールバーニング測定を行う為の過渡二次元電子分光装置が、すでに研究室に保有していたシステムをベースに構築することができたため、当初これに想定していた予算を使用する必要がなくなった。そこで来年度に行うこの過渡二次元電子分光装置を用いて行う実験、および5次時間領域ラマン分光を行うために現有の時間分解インパルシブラマン分光装置を拡張するため、予算を合算して使用する。
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Research Products
(2 results)