2021 Fiscal Year Research-status Report
含ケイ素反芳香族化合物シラフェナレンおよび奇交互炭化水素シラフェナレニルの創生
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21K18954
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
坂本 健吉 静岡大学, 理学部, 教授 (50187035)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 反芳香族性 / 常磁性環電流 / 芳香族性 / 有機ケイ素化合物 / π電子系化合物 / 奇交互炭化水素 / フェナレン / フェナレニル |
Outline of Annual Research Achievements |
中心部にケイ素を有する縮合三環式化合物シラフェナレン1は周辺に環状12π電子系を有する反芳香族分子であるが、その合成法は知られていなかった。本研究課題では以下の方法を用いて1や関連化合物の合成法を確立し、その物性や反応性を精査した。 既に研究代表者は1の還元体であるヘキサヒドロシラフェナレン2の合成に成功している。そこで、2を二酸化セレンを用いた酸化反応により周辺環部に存在するアリル部位の1個をヒドロキシ化し、さらに脱水によりテトラヒドロシラフェナレン3に導いた。3はDDQ酸化により温和な条件下で目的化合物である1を与えた。1は特徴的なNMRにおける化学シフトを示したが、これは反芳香族性に由来する常磁性環電流効果により説明することができた。 1の反応性として、周辺環部の3個のアルケン部位の反応性についても調査した。接触還元では全てのアルケン部位がケイ素上の置換基と同じ方向から水素付加を受け、全cis型のドデカヒドロシラフェナレンが得られた。この立体化学は実測のNMRスペクトルと計算機化学で求めたスペクトルの比較により決定した。また、Simmons-Smith反応では3個のシクロプロパン化が段階的に進行することが分かったが、この場合もケイ素上の置換基と同じ側からの反応が進んでいることを示すことができた。さらに1と四酸化オスミウムとの反応でも、同じ立体化学で3ヶ所のジオール化が進行し、水溶性のヘキサオール4が得られた。 中心部にケイ素以外の元素を有する様々なヘテロフェナレンの合成についても研究を行った。今年度はリンを有するホスファフェナレン5の前駆体であるヘキサヒドロホスファフェナレン6の合成に成功し、その同定を行った。6は2と同じくキラルなC3対称性をもつ分子であり、空気や水に安定な白色固体として得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画ではヘキサヒドロシラフェナレン2からシラフェナレン1への変換は容易ではないと予想していたが、想定より単純な手法で1の合成が達成され、理論化学的な予想を再現する物性を示すことができた。 2に関しては、セレン酸化の他、接触還元や、Simmons-Smith反応、オスミウム酸化など様々な反応を行い、高収率ないし中程度の収率で元の三環式骨格を保持した生成物が生じることを示すことができた。また、これらの反応生成物の立体化学をNMRと計算機科学を駆使して明らかにすることができた。さらに、オスミウム酸化生成物であるヘキサオール4は単結晶X線結晶構造解析により水素結合による二次元シート状構造をもっていることを明らかにすることができた。 これまでにケイ素、ホウ素、ならびにゲルマニウムを有するヘキサヒドロヘテロフェナレンの合成を達成しているが、本研究課題で新たにリンを有する6を得ることができた。6は分子の歪みが大きいため、当初は合成困難であり合成できたとしても不安定であると予想していたが、実際には極めて安定であった。このため、新規なキラルホスフィン配位子として有用であると期待される。 なお、鉄サンドイッチ型化合物7の合成についても、その前駆体の合成に成功しており順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘキサヒドロシラフェナレン2からシラフェナレン1への酸化的な変換反応について、条件の最適化を行い高効率化をはかる。また発生に成功した1の純物質としての単離を目的として、あらかじめ2のケイ素上や周辺環部に速度論的な安定化効果をもつ嵩高い置換基を導入する。 ヘキサヒドロホスファフェナレン6からホスファフェナレン5への変換を行うため、6のリン上に酸素やイオウを導入したホスフィンオキシドやホスフィンスルフィドを利用した反応を行う。また、ケイ素、ゲルマニウム、ホウ素、リン以外の元素を有するヘキサヒドロヘテロフェナレンとして、スズやアルミニウム、ビスマスについての検討を行う。 芳香族性であると予想されるシラフェナレニルアニオン8の合成法として、シロキシ基を有するシラフェナレンのアルカリ金属による還元を行う。また、シラフェナレニル鉄サンドイッチ型化合物7の合成を行い、アルカリ金属還元による8の発生を検討する。 これらの化合物の構造や反応性については、引き続き計算機化学での再現と予想を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は266円と少額であるため、本研究を遂行するに必要な物品を購入することは難しかった。この理由により次年度分と合わせて執行したい。 次年度に購入予定の物品費(有機薬品)の一部として執行する予定である。
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