2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of a real-time trace-gas analysis method based on cavity-enhanced Raman spectroscopy
Project/Area Number |
21K18983
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
財津 慎一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60423521)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | 光共振器 / ラマン分光法 / ラマン散乱 / 誘導ラマン散乱 / ガス分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、共振器増強ラマン分光に基づいた、新しい多成分リアルタイムガス分析法の開発を目的として研究を進めている。研究初年度は、ノルマル水素ガスを充填したチャンバー内に配置した高反射鏡で構成される高フィネス共振器を用い、共振器軸方向に出射される自発ラマン散乱光の観測を実施した。その結果、(1)4つの回転準位からの自発ラマン散乱光の同時観測、を実現し、また、これまでにない知見として、(2)ある特定の共振条件下において、自発ラマン散乱光の発生効率が約20%増強される効果、を初めて見出した。 (1)4つの回転準位からの自発ラマン散乱光の同時観測 これまでの同様の実験系を用いた結果においては、室温で水素分子の約3/4を占める回転準位J=1からの自発ラマン散乱光のみが観測されていた。本実験では、光学系の改良により、J=1から信号に加えて、J=0、J=2,J=3からの自発ラマン散乱光の観測に成功した。これらの自発ラマン散乱光強度の比は、室温での回転準位分布比に一致した。この結果は、共振器による増強効果が、自発ラマン散乱光に対して得られていないことを意味している。 (2)自発ラマン散乱光発生効率の増強 上記した結果を得る一方、一連の実験の中で、ある特定の共振条件下では、自発ラマン散乱光が約20%程度増強されることを見出した。更なる詳細な検討の結果、この増強効果は、誘導ラマン散乱が発生する条件下においてのみ得られることが明らかとなった。これは、共振器の共振線(縦モード)が、有限の幅を持つラマンゲインと一致したときのみ自発ラマン散乱が増強されることを意味しており、共振器増強ラマン分光法によるラマン散乱発生過程における初めての発見であった。この発見は、共振器増強ラマン分光法よる分子検出法において、更なる検出感度の向上をもたらす可能性のある有用な知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新しい共振器増強ラマン分光法の実現を目指して、挑戦的な萌芽研究を進めている。その過程において、研究初年度(令和3年度)は、未だ未知な部分の多い共振器増強条件下における自発ラマン散乱光の発生過程の解明に関する基礎的な実験を実施した。その結果、研究実績の概要に示したように、(1)4つの回転準位からの自発ラマン散乱光の同時観測、(2)自発ラマン散乱光発生効率の増強効果の初めての観測、を達成した。(1)の成果は、新しい共振器増強ラマン分光法の実現のための基礎的な知見であり、また、この成果(1)に加えて、(2)のこれまでに見いだされていなかった事実を初めて実験的に明らかにする成果を得たので、当初の計画以上に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、前年度の成果を受けて、以下の研究課題に取り組む。 (1)共振器軸方向と非軸方向の放射散乱光の比較 これまでの実験では、共振器から出射される自発ラマン散乱光を、共振器軸(励起光の進行方向)と同じ方向の出射側(前方)のみにおいて観測していした。しかしながら、共振器増強法における自発ラマン光は、励起光進行方向と逆の方向(後方)、および、軸方向に対して直交する非同軸方向にも放射されていると考えられる。本実験では、光学系を新たに構築し、これまで観測していなかったこれらのラマン散乱光を観測する。観測された結果を、同軸前方ラマン散乱光と比較する。特に、非同軸方向に放射される自発ラマン散乱光は、これまで明らかになっていなかった自発ラマン散乱光の共振器増強効果に対する更なる情報が与えられると期待できる。 (2)コヒーレントラマン散乱による信号強度増強率の測定 前年度において、自発ラマン散乱光発生の共振器増強効果について初めての観測を実現したが、本研究の目的となる気体分子の高感度分析を実現するためには、更なる信号強度の増強が求められる。これを実現するための新しいアプローチとして、「共振器増強コヒーレントラマン散乱」を採用する。自発ラマン散乱に対するコヒーレントラマン散乱の理論上の信号増強率は算出できているが、それを実験的に測定した報告は存在しない。本研究では、水素分子充填共振器内で位相整合条件下でコヒーレントストークスラマン散乱光を発生させ、同条件で発生させた自発ラマン散乱光との信号強度を比較する。これにより、気体分子の高感度分析法実現の可能性を探索する。
|
Causes of Carryover |
初年度に導入予定していた外部共振器型半導体レーザー、および、テーパー付き半導体増幅器が、コロナ禍による製造遅延のために、入手が困難であった。そのため、これらの物品の導入を後年度に変更し、既設のレーザー装置にて実験を実施した。この理由により次年度使用額が生じた。
|