2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of high-performance organic semiconductor electrets
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21K19010
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 自発配向分極 / 分子配向 / 振動発電 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では振動発電に着目し、その核心材料であるエレクトレット材料の性能を飛躍的に高め、これまでにないエレクトレット材料を創出することを最終的な研究目的としている。近年、有機低分子薄膜で形成される有機薄膜中分子の自発配向分極を利用することで、コロナ帯電処理なしに自己組織化的にエレクトレットが形成されることが報告され、大きく注目されている。そこでR3年度の研究では、種々の有機半導体分子における自発配向分極特性を調査するとともに、有機分子薄膜で形成される自発配向分極を制御するための因子について検討し、自己組織化エレクトレットを使用した振動発電素子をより高出力化する手法を提案することを目指した。 R3年度は、ケルビンプローブ法を用いて有機半導体薄膜の自発配向分極特性を観測するため、その場測定可能な真空蒸着装置を設計・構築した。また、3,6-bis(diphenylphosphoryl)-9-phenylcarbazole(PO9)をモデル化合物として、9-(3,5-bis(diphenylphosphoryl)phenyl)-9H-carbazole(CzPO2)、2,7-bis(diphenylphosphoryl)-9-phenyl-9H-carbazole(PPO27)、9-phenyl-3,6-bis(4-(1-phenyl-1H -benzoimidazol-2-yl)phenyl)-9H-carbazole(CNBzIm)などの誘導体について、その自発配向分極特性を作製した装置を用いて評価した。結果、CNBzIm薄膜が大きな自発配向分極(~80 mV/nm)を示すこと、さらに蒸着速度および蒸着回数、成膜待機時間が、自発配向分極特性に大きく影響することを見出した。これは、真空蒸着中の有機薄膜表面における分子配向挙動が、その自発配向分極特性を決定しているためと理解できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R3年度は、ケルビンプローブ法を用いて有機半導体薄膜表面の自発配向分極特性を観測するため、ケルビンプローブ測定用真空と有機分子蒸着用真空チャンバーから構成される「その場測定真空蒸着装置」を設計・構築した。作製した真空蒸着装置を用い、PO9、CzPO2、PPO27、CNBzImなどの有機半導体分子について、その自発配向分極特性を作製した装置を用いて評価した。結果、CNBzIm薄膜が大きな自発配向分極(~80 mV/nm)を示すこと、さらに蒸着速度および蒸着回数、成膜待機時間が自発配向分極特性に大きく影響することを見出した。これは、真空蒸着中の有機薄膜表面における分子配向挙動が、その自発配向分極特性を決定しているためと理解できる。また有機分子の配座構造が、自発配向分極特性に影響していることを確認した。さらに、CNBzImを使用した振動発電素子の試作にも取り組み、電極間距離の変動により1uA程度の電流が得られることを実証した。 一方で、ケルビンプローブ測定だけでなく、振動発電や光耐久性試験といった各種振動発電素子用測定装置の構築は、世界的な半導体不足による装置導入の遅れにより、当初計画よりも遅れている。 以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は「やや遅れている」と自己判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度実施の研究を通し、多くの配座構造を有する分子は、大きな永久双極子モーメントを有していたとしても、比較的小さな自発配向分極を示すという事実を確認した。これは、膜堆積中に形成される分子配向の乱れを誘起してしまうためと予想している。そのためR4年度の研究では、極力配座構造の少ない分子を新たに設計し、その自発配向分極特性を評価する計画である。これまでに、量子化学計算および配座計算の検討を実施しており、複数個の有望な分子種を見出した、また既に、新規化合物の合成に取り組んでいる。そこでR4年度は、それらの化合物に注力して研究を実施し、本研究の数値目標である200 mV nm-1以上という性能の実現を目指すとともに、自発配向分極の極性制御にも取り組み、自発配向分極の起源に迫る計画である。
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Causes of Carryover |
当初計画では、R3年度に「ケルビンプローブその場測定真空蒸着装置」を構築するとともに、振動発電計測や光耐久性試験などの振動発電素子用各種測定も同時に計測できるように装置改造をする計画であった。しかし、半導体部品の世界的な供給不足のため、プレシジョンソース/メジャーユニット(SMU)やオシロスコープ、高性能マルチチャンネル分光測定装置などの導入予定装置の納入予定日が極めて遅くなり、年度内での納入が不可能となったために、次年度使用額が発生した。 R4年度においては、上記した各種測定装置を導入するとともに、真空蒸着装置用部材費、新規化合物用の合成試薬費、学会参加費、論文掲載費として予算を適切に執行する計画である。
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