2021 Fiscal Year Research-status Report
Synthesis of novel ferromagnetic amorphous oxides and excitation of magnons in them
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21K19025
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 勝久 京都大学, 工学研究科, 教授 (80188292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | アモルファス酸化物 / 強磁性 / マグノン / 希土類 / 薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究における最大の興味は、構造に並進対称性や長距離秩序のないアモルファス酸化物においてマグノンの励起が可能か否かという点にある。従来、マグノンは強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体のような長距離の磁気秩序を持つ系で観測されることから、論点は以下のように整理できる。まず、アモルファス酸化物のように原子配列が無秩序であっても短距離の磁気的相互作用が働く系ではマグノン(あるいはそれに類似の励起)が存在するか否か、もう一つは、アモルファス酸化物が強磁性であれ、スピングラスであれ、磁気秩序が存在すればマグノンが観察できるのかという点である。そこで、今年度は、近似的に絶対零度まで常磁性体である一方、大きな磁気モーメントを持つイオンから成る系として、Tb3+を高濃度に含有する酸化物ガラスを対象に組成の異なる数種類のガラスを作製し、磁性、磁気光学的性質を調べるとともにさまざまな分光学的手段を用いて構造解析を行った。一つの系はTb2O3-Al2O3-SiO2-B2O3であり、磁性については電子スピン共鳴と磁化測定を用いて、また、磁気光学効果についてはファラデー回転角を測定して、テルビウムイオンの磁気モーメントと磁気的相互作用に関する情報を得た。まず、B2O3の割合が増すほどTb3+のモル分率が増加するため、磁気モーメントの数密度に応じてファラデー回転角も大きくなることを明らかにした。さらに、ガラス作製時の溶融条件を最適化することによって、Tb3+のみを含み、濃度が60 mol%に至る組成のガラスを得ることに成功した。このガラスのファラデー回転角は、実用化されているTb3Ga5O12単結晶の値の1.7倍に達する。すなわち、磁化率の大きなガラスが実現した。同時に、磁化測定の解析から、このガラスは極低温まで常磁性であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要で述べたように、本来は秩序磁性が前提であったマグノンの励起が無秩序状態の常磁性で見られるのか、また、同じ無秩序状態でもスピンダイナミクスが常磁性とは異なるスピングラス相ではどうか、さらには、秩序磁性が存在していればアモルファス構造を持つ酸化物でもマグノンは励起できるのか、が本研究で知りたい内容である。そのため、磁気モーメントが大きい数種類のアモルファス酸化物を作製することから研究を開始した。本年度は、Tb3+高含有酸化物ガラスを作製し、磁化測定、電子スピン共鳴、磁気光学効果測定に基づいてこのガラスが極低温まで常磁性を示すことを明らかにした。特に、Tb3+を60 mol%まで含有する酸化物ガラスが得られ、このガラスのファラデー回転角は、同じ波長で比較したとき、実用化されているTb3Ga5O12単結晶の1.7倍に達した。Tb3+を高濃度で含む酸化物結晶ならびにガラスはいずれもファラデー回転角が磁化率、ひいては磁気モーメントの濃度に比例するので、得られたガラスは磁気モーメントの数密度が高いものの磁気的相互作用の弱い磁性体の典型例として扱うことができる。 本研究の申請の段階では、初年度は強磁性を示すアモルファス酸化物を合成すること、2年目は作製したアモルファス酸化物のマグノン励起の実験に取り掛かることを計画した。今年度に作製したアモルファス酸化物は常磁性体であり、強磁性およびスピングラスとなるアモルファス酸化物はそれぞれEu2+およびFe3+を高濃度に含む酸化物ガラスを対象とする予定であるが、研究代表者はこれらのガラスの磁性についてPhysical Review Bなど固体物理学の一流誌に多くの論文を掲載しており、試料の作製と磁性の解析についてはまったく問題がない。このように、本研究はおおむね予定通り順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は前年度に引き続いてアモルファス酸化物磁性体の合成を行うとともに、得られた試料を対象にマグノンの励起を試みる実験に取り掛かる。アモルファス酸化物は強磁性体のみならず常磁性体やスピングラスも考慮し、前年度に作製したTb3+含有ガラスのほか、大きな磁気モーメントを持つGd3+やDy3+を含む酸化物ガラスも対象とする。一方、結晶やガラスにおける磁気的相互作用は、一般に希土類イオンより3d遷移金属イオンの方が大きい。酸化物ガラスでは、3d遷移金属イオンは反強磁性的相互作用が主となるものの、そのワイス温度(の絶対値)が室温近くになるものもあることから、短距離の磁気秩序が存在する。そのような系ではマグノンに類似した磁気励起を観測できる可能性がある。この観点から、磁気モーメントが大きく、磁気的相互作用が強く、磁気転移温度も高い条件を満たす遷移金属イオンとしてFe3+を選択し、これを高濃度で含有する酸化物ガラスを作製する。試料の磁気的性質については超伝導量子干渉磁力計を用いて磁化および磁化率を測定する。特に磁気モーメントとワイス温度の見積りは重要である。 続いて、アモルファス酸化物磁性体の表面にリソグラフィーなどの微細加工により金属電極を取り付け、スピンホール効果を用いたマグノンの励起を試みる。具体的には、試料の表面に二つの白金電極と一つの銅電極を取り付け、中央の白金電極に電流を流し、もう一つの白金電極と銅電極における起電力を検出する。測定は強磁性、常磁性、スピングラス相のそれぞれの状態が安定な温度で実施する。ナノインプリントなど精度の良いナノ加工技術に長けた研究分担者が測定用試料作製の作業を担い、これまで酸化物結晶やガラスの構造と磁気的性質に関して研究を進めてきた研究代表者が物性測定と解析を行うことにより本研究を推進する。
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Research Products
(2 results)