2021 Fiscal Year Research-status Report
紫外-近赤外光電変換に向けたポーラー層状ペロブスカイト材料の創製
Project/Area Number |
21K19027
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
赤松 寛文 九州大学, 工学研究院, 准教授 (10776537)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | シフト電流 / 強誘電体 / 第一原理計算 / 層状ペロブスカイト |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼などの製造業では高温プロセスが必須であり、熱輻射が必ず生じる。この熱輻射を電気エネルギーへ効率良く変換できれば、環境への負荷を低減できる。現在実用化している光-電気エネルギー変換システムでは、半導体のpn接合などのヘテロ構造により光誘起キャリアを分離する方法が採用されている。しかし、その代表的な半導体材料であるSiのバンドギャップは1.1 eV程度であり、熱輻射に含まれる近赤外より長波長側の電磁波を利用できない。一方で最近、強誘電体あるいはポーラー物質におけるバルク光起電力効果、すなわちシフト電流効果を用いた次世代型光-電気エネルギー変換デバイスが注目を集めている。この効果は中心対称性のない物質の光電子励起過程における電荷中心のシフトを起源とする量子力学的効果である。このシフト電流効果による光-電気エネルギー変換では、開放端電圧に制限がなく、発電効率がバンドギャップに制限されないため、熱輻射を最大限に利用できる。しかしながら、シフト電流の表式は非常に複雑であるため、高シフト電流材料の設計指針は確立しておらず、材料開発はほとんど進んでいない。 本研究では、従来型の光発電システムとは全く異なる原理で駆動し、紫外-近赤外領域の電磁波を最大限に利用できる革新的光-電気エネルギー変換材料の創製を目指す。本研究の課題は①紫外-近赤外領域で強い光吸収を示すポーラー材料の創製および②第一原理計算による高シフト電流材料の設計指針の確立である。本年度は、シフト電流スペクトルを理論計算する基盤の確立を目指した。いくつかの典型的な強誘電体に対して、密度汎関数に基づいた第一原理計算を用いて電子状態計算を行った。得られた波動関数をワニエ関数に変換し、シフト電流スペクトルの計算を行った。その結果が先行研究と一致したことから、シフト電流スペクトルの理論計算についての基盤技術が確立できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
典型的な強誘電体であるBaTiO3(空間群: P4mm)の電子状態(電子状態密度・電子バンド構造)をQuantum Espressoコードを用いて計算した。PBE型のGGA汎関数を用いた。得られたバンド構造をワニエ関数によりフィッティングした。ワニエ関数により記述された電子状態を用いて、シフト電流スペクトルを計算した。シフト電流スペクトルは、電子状態密度計算における逆空間サンプリング密度に依存することが明らかになった。例えば、逆空間サンプリング密度が低い場合、空間群P4mmのBaTiO3では対称性の制約によりゼロになるはずのシフト電流テンソル成分σ11およびσ22が有限値をとった。この問題は逆空間サンプリング密度を増加することにより解決できた。また、中心対称性をもたないGaAs(空間群: F-43m)についてもシフト電流スペクトルを計算した。以上のように、本研究は概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究により、シフト電流スペクトルの理論計算についての基盤技術が確立できた。本研究でターゲットとする層状ペロブスカイト物質について、シフト電流スペクトルを計算し、紫外-近赤外領域で強い光吸収を示すポーラー材料を探索する。 理論計算により見出された候補物質を合成し、構造解析・光吸収スペクトル測定などのキャラクタリゼーションを行う。光起電力測定システムをセットアップし、測定を行う。
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Research Products
(4 results)