2023 Fiscal Year Annual Research Report
隣接元素を選択して電子状態観測できる新しい放射光硬X線分光法の開発
Project/Area Number |
21K19035
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
石井 賢司 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員 (40343933)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | X線吸収分光 / X線発光分光 / 放射光X線分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、化学結合した隣接元素を選択して電子状態を観測することができる、新しい原理に基づく放射光硬X線分光法の開発を目的とした。遷移金属酸化物を測定対象とし、硬X線領域にある遷移金属K吸収端近くのX線を入射し、遷移金属1s軌道にある電子を非占有反結合性軌道へ遷移させる。そのような中間状態から、酸素1s電子が遷移金属1s軌道の内殻正孔を埋める原子をまたいだ遷移(交差遷移)で発光される硬X線を検出する。この過程が観測できることが実証されれば、酸素が複数の金属と結合している場合でも、金属の吸収端を選ぶことで、観測したい酸素が結合した隣接元素の区別が可能となる。また、選択則は異なるが、終状態で電子とホールが同じ軌道を占有するという意味で酸素K吸収端の軟X線吸収と同等のスペクトルが得られ、硬X線の持つ高透過能の特長も活用することができる。 実証実験ではNiOを対象とし、NiのK吸収端に合致した分光素子を導入して測定を行った。入射X線のエネルギーをNiのK吸収端(吸収スペクトルの変曲点)とした測定では酸素K吸収と類似のスペクトルが得られたものの、吸収端よりも十分低エネルギーのX線を入射した測定と比べて共鳴増大の効果は観測されなかったため、通常のX線ラマン散乱の過程によりスペクトルが得られたものと考えられる。入射X線のエネルギーを吸収スペクトルのホワイトラインに合わせた測定では、バックグラウンドが大幅に増加し、目的とするスペクトルは得られなかった。バックグラウンド強度の入射エネルギー依存性は吸収スペクトルとほぼ一致しており、Niの蛍光線の裾がバックグラウンドの主要因と言える。以上の結果から、観測を目指した交差遷移による発光はX線ラマン散乱や蛍光X線の裾に比べて強度が非常に弱いため、目的とする分光法は現時点では困難であり、何らかの方法でバックグラウンドの除去が必要という結論となった。
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