2021 Fiscal Year Research-status Report
Studies on functional and chemical diversity of siderophores produced by filamentous fungi
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21K19069
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 稔 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80191617)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | シデロフォア / 生合成遺伝子 / 化学構造進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は糸状菌Acremonium persicinumの生産する2つのシデロフォアの構造進化と生理的役割を解明し、「微生物二次代謝産物の化学構造進化の謎」という根源的な課題の解に迫ることを目的とする。本菌の生産するシデロフォア型抗真菌化合物ASP2488053はシデロフォア輸送体を介して標的細胞に取り込まれて殺菌する天然のシデロマイシンである。申請者らはすでにA. persicinumのゲノムを解読し、ASP2488053の生合成遺伝子と化学構造が類似するが抗菌性のないフェリクローム類縁体Xの生合成遺伝子をもう1つ見出していた。またASP2488053は鉄飢餓条件下で細胞外に分泌され、類縁体Xは鉄過剰条件下で細胞内に蓄積されることも明らかにしていた。初年度はそれらの生理機能を明らかにすることを目的として、以下の2点を解析した。 (1)生合成遺伝子の同定:ゲノム解析により検出された2つのシデロフォアの生合成遺伝子のうちNRPSをコードするもの(sid1とsid2と命名)を破壊し、代謝物を解析することでsid1はASP2499053、sid2はフェリクロシン(類縁体X)の生合成遺伝子であることを明らかにした。なお両者のアミノ酸配列(Aドメイン)を系統樹解析に供したところ、sid2は真菌に広く保存されるシデロフォアのAドメインと同じクラスターを形成し、sid1はシデロフォア以外のNRPSと同じクラスターを形成した。このことは両遺伝子が進化的に別物であることを示唆している。 (2)遺伝子破壊株の表現型:sid1とsid2遺伝子の破壊株を用いて鉄飢餓・鉄過剰条件下で培養試験を行い、ASP2488053は抗生物質として働くと同時に鉄取り込みに使われること、フェリクロシンは余剰な鉄の解毒に使われることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては糸状菌A. persicinumが産生する2種のフェリクローム型シデロフォアの生理機能を明らかにすることを目的としており、初年度には以下の2点を解析し、順調に研究成果が上がっている。またそれらを学術論文として公表するに至っている。研究成果の詳細を以下に示す。 (1)生合成遺伝子の同定:研究開始当初に既に検出されていた2つの推定NRPSについて、アグロバクテリウムを用いた手法によりコードする遺伝子を破壊し、代謝物解析を行った。Sid1と命名した遺伝子の破壊株ではAS2488053が産生されないこと、Sid2と命名した遺伝子の破壊株ではフェリクロシンが産生されないことから、シデロフォア生合成に必要なNRPS遺伝子の同定に成功した。開始当初はフェリクローム類縁体XとしていたSid2の生合成産物も、質量分析を用いて標品と比較解析することでフェリクロシンであると同定するに至った。 (2)遺伝子破壊株の表現型観察:糸状菌A. persicinumを日和見感染菌Aspergillus fumigatusと対峙培養すると鉄飢餓条件でのみA. fumigatusの生育を阻害することを見出し、AS2488053を産生しないsid1破壊株はそれが出来ないことを明らかにした。Sid2破壊株はこの試験では野生株と変わらない結果を与え、種々の培養条件を検討したところ、鉄を過剰に添加した条件で生育不良を示すことを見出した。さらにAS2488053を生産菌に添加したところ、鉄飢餓で産生される未同定代謝物の産生が抑制された。これらの結果は、ASP2488053は抗生物質として働くと同時に鉄取り込みに使われること、フェリクロシンは余剰な鉄の解毒に使われることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
糸状菌A. persicinumが産生する2種のフェリクローム型シデロフォアの生産調節や生理機能を解明するため、2年度目には以下の研究を計画している。 (1)生産調節機構と生理機能の解析:ゲノム解読の結果、糸状菌A. persicinumが持つSid1やSid2遺伝子の周辺にはASP2488053とフェリクロシンの構成アミノ酸であるN-ヒドロキシ-N-アセチルオルニチンの産生酵素をコードする候補遺伝子や、鉄蓄積により誘導される細胞死(フェロトーシス)に関連するタンパク質、酸化還元酵素、ABCトランスポーターをコードする遺伝子が散在していることが明らかになっている。Sid1およびSid2遺伝子と同様にそれら遺伝子についても発現量を定量する。一方で、これらの遺伝子を順次破壊し、物質生産や生育などの表現型を観察する。それによりシデロフォアの生合成や鉄代謝、細胞外分泌や細胞内貯蔵に関連する遺伝子群を同定し、2つのシデロフォアの生合成や機能発現の調節機構を解明する。 (2)自己耐性機構の解析:ASP2488053は低濃度で抗真菌活性を示すが、生産菌A. persicinumには高濃度で処理しても全く生育に影響が出ない。これは本菌がASP2488053に対する自己耐性を持っていることを示す。そこでSid1遺伝子の周辺に位置する遺伝子のうち、鉄飢餓条件で転写が上昇するものに着目し、耐性遺伝子の同定を試みる。すなわち遺伝子の破壊と異種発現を行い、遺伝子破壊によるASP2488053に対する感受性の上昇や異種発現による耐性化の獲得がみられる遺伝子を探索する。得られる自己耐性遺伝子候補については、ドメイン欠失や点変異の導入などによりコードされるタンパク質の機能解析を行い、自己耐性機構の解明を目指す。
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Causes of Carryover |
物流がコロナの影響を受けているようで、購入を計画していたプラスチック消耗品が一部、納品されなかった。そこで当該予算を次年度に繰り越すこととした。
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Differential Biosynthesis and Roles of Two Ferrichrome-Type Siderophores, ASP2397/AS2488053 and Ferricrocin, in Acremonium persicinum.2022
Author(s)
Yoshiki Asai, Tomoshige Hiratsuka, Miyu Ueda, Yumi Kawamura, Shumpei Asamizu, Hiroyasu Onaka, Manabu Arioka, Shinichi Nishimura, and Minoru Yoshida.
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Journal Title
ACS Chem. Biol.
Volume: 17
Pages: 207 216
DOI
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