2021 Fiscal Year Research-status Report
大環状天然物の立体配座制御による高選択的な抗HIVシーズの開発
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21K19076
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塚野 千尋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70524255)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
明里 宏文 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 教授 (20294671)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 合成化学 / 有機化学 / 構造活性相関 / 全合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
後天性免疫不全症候群は、抗HIV薬の開発と多剤併用療法の確立により、延命が可能となっているが、根治はできない。これは、細胞に潜伏して免疫系から攻撃を逃れているウイルスを排除できないためである。HIV根治薬の開発において、この潜伏HIVを活性化してウイルスを排除することが必須である。HIVを活性化させる化合物としてセリン・スレオニン特異的タンパク質リン酸化酵素 Protein kinase C (PKC) リガンドが候補として挙げられている。しかし、より強力にウイルスを活性化でき、かつ副作用の少ないPKCリガンドの開発が求められている。本研究は、この重要課題に対し、PKCを活性化するジテルペノイド天然物の中から立体配座の制御が可能な大環状化合物を基盤として副作用を抑えた新規PKCリガンドを創出することを目的として、研究を開始した。大環状化合物としてLathyrane型天然物 3,12-di-O-acetyl-8-O-tigloylingolに着目した。Lathyrane型天然物に関する合成研究はすくなく、本ジテルペノイドについても全合成は報告されていない。 2021年度は3,12-di-O-acetyl-8-O-tigloylingolの合成経路を立案し、二つのフラグメントを連結する収束的合成法の確立を目指した。右側フラグメントについては、ビニロガスアルドール反応を鍵として連続した立体中心を構築して、その合成法を確立した。また、左側フラグメントについては、金属触媒反応を鍵として5員環構造を構築し、合成の足がかりを得た。また、ELACの配座について、計算化学を用いて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Lathyrane型大環状天然物の立体配座を適切にコントロールするために、以下の事項を検討した。 1.シード化合物の設計:Lathyrane型天然物の安定配座について計算化学を用いて検討した。その結果、3,12-di-O-acetyl-8-O-tigloylingolの三次元配座は, 強力なPKC活性化剤として知られるホルボールエステルと類似性があることが判明した。そこで、不斉中心の除去や反転によってホルボール骨格についても安定配座を計算化学的に検討し、近い配座になることによって、より強力にPKCを活性化し、一方で, 発がん促進作用の弱い12-deoxyphorbolと類似性のある骨格を探索した。 2.シード候補化合物の合成:3,12-di-O-acetyl-8-O-tigloylingolを効率よく合成するために、フラグメント連結による収束的合成法について検討した。収束的合成法の利点の一つは、二つのフラグメントの組み合わせを工夫することで多様な構造類縁体を効率的にできる点である。2021年度は特に二つのフラグメントの合成法について検討した。三員環構造を含む右側フラグメントについては、ビニロガスアルドール反応を鍵として合成する方法を確立した。左側フラグメントについては、ニッケル触媒反応を鍵として5員環構造を構築し、合成の足がかりを得た。本反応は収率に改善の余地があり、今後さらに検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.シード化合物の設計:Lathyrane型天然物の安定配座について引き続き、計算化学を用いて検討する。特に、より強力にPKCを活性化し、一方で, 発がん促進作用の弱い12-deoxyphorbolと類似性のある骨格を引き続き探索する。また、置換基の数と配座の柔軟性について検討し、合成がより簡便になる構造類縁体を設計する。 2.シード候補化合物の合成:右側フラグメントについて、確立した合成経路により大量合成を実施する。左側フラグメントについて、ニッケル触媒反応を鍵として5員環構築法について、配位子、溶媒、反応温度などについて詳細に検討し、収率を改善する。さらに大量合成を実施し、右側フラグメントと連結することで、lathyrane型ジテルペノイドの骨格を構築する。また、11員環上の置換基の立体配置を系統的に除去あるいは反転させることにより配座の微調整を可能とする。これにより設計したシード候補化合物を合成することを目指す。 3.潜伏HIV活性化剤シードの創製を目指して:合成した類縁体のPKC活性化能および発がん促進作用を評価する。研究協力者の入江(京大院農)の協力を得て、PKCアイソザイム結合能を評価する。また、研究分担者の明里の協力を得て、shock & kill療法への適用を見据えて、HIV潜伏感染細胞株を用いて活性化能を評価し、初代末梢血リンパ球において細胞毒性や炎症性サイトカイン誘導を有さない候補化合物を抽出する。 上記の3つの事項を通して、副作用を抑えたより強力な新規PKCリガンドの創出を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で研究室での感染拡大を防ぐため、実験時間に制限が生じ、結果的に消耗品への支出が減った。以上の要因によって、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(3 results)